今では、あまり話題にはなりませんが、一時『生命保険は人生で、マイホームに次ぐ2番目に大きな買い物』というキャッチフレーズが、盛んに語られたことがありました。この《感覚》が、営業者の皆様や顧客層の心の底に残っているとしたら、実は大きな問題かも知れないのです…。

1.独特のキャッチフレーズが持っていた意図

もちろん、『生命保険はナンバー2の高額買い物』というキャッチフレーズは、『だから適切なものを選ぼう』という呼びかけだったはずです。
ただ《マイホーム》と比較するところから、『せっかく生命保険を契約するなら、保険料が高額でも保障が十分な方がいいよね』というニュアンスをも忍ばせていかも知れません。
ところが、平成以降の《節約志向》や《家は買うより借りるべきだ》という主張もあって、『生命保険に、そんなに高額な出費をするのはもったいない』というニュアンスが、メディア等で広がったようにも感じてしまうのです。

2.他の金融商品との比較もフェアーではない

死亡保障がある生命保険と、一般の金融商品や貯蓄とを《運用効率》で比較するのは、全くフェアーではありませんが、比較したくなる動機の根に、『生命保険は高額過ぎる』という印象が残っているという気がしてなりません。
さて、生命保険は本当にマーホームに次ぐ程の《高額商品》なのでしょうか。ちょっと、比較の視点を変えてみましょう。

3.統計を起点とする《イメージ可能》な数値

総務省の2021年の家計調査報告によれば、4人家族世帯の1ヵ月当たりの飲食費は8.3万円なのだそうです。ただ、教養娯楽費とその他(小遣いなど)の合計が7.6万円に達しています。娯楽や小遣いは、飲食に使うこともあるため、その3割が飲食費だとするなら、1ヵ月の実質飲食費は(8.3+7.6×0.3=)10.6万円だと推測できます。あくまで推測ですが…。
しかも、生命保険に加入する世帯は平均より豊かに暮らしていると《想像》するなら、1ヵ月の飲食費は14万円程度でもおかしくはないとも言えるのです。子供が独立して夫婦2人になっても、この6割、つまり9万円ほどは飲食費に消えて行くと捉えるのも自然な発想でしょう。

4.どの程度の規模の飲食費を負担して行くか

仮に比較的豊かな家族が、下の子が独立するまでの20年間に、平均で月14万円の飲食を続けたとすれば、その間の総額は(14万円×12ヵ月×20年間=)3,360万円に達します。
その一方で、この世帯が契約した終身保険(払込み期間20年)の毎月の保険料が7万円だとすると、20年間の支払保険料総額は飲食代の半分程度、つまり1,680万円に留まるのです。しかも、飲食費は20年経過後も、毎月9万円より多い月額11万円とすると、この夫婦が子供独立後30年間生きるなら、生命保険契約後の飲食費は更に3,960万円が加算され、先の3,360万円と合わせて《7,320万円》に至るのです。

5.月次の保険料が7万円の終身保険では…?

一方、毎月の保険料が7万円で、払込満了期間が20年の終身保険の保険料総額は1,680万円でした。これでも飲食費と比較すれば少額です。しかし、保険料は契約後20年経過以降に解約すると、無配当商品でなければ、《同額程度の解約返戻金》が契約者の手に入ります。
契約期間の中途で解約すれば、支払い保険料の全額は戻らないでしょうが、その後の保険料支出は必要なくなります。勿論、契約期間中に被保険者が死亡すれば、遺族は死亡保険金を受け取り、その後の保険料負担はありません。
1,680万円という総額保険料は、その契約での《上限》であり、契約者が必ず全額支払う(あるいは失う)ものではないのです。いつでも解約できるし、払込期間満了後は取り戻せるということです。飲食費とは性質が全く違います。

6.マイホームと生命保険も本質的に違うモノ

マイホームも売却すれば、ある程度取り戻せるとは言えます。特に都市部の人気マンション等は、新築購入価格よりも高額で売れるケースもあるでしょう。売らずに賃貸収入を得る方法もあります。
しかし、マイホームを売ったり賃貸したりした時は、新たに《別の住処》を確保しなければなりません。築10年のマンションが、買った時より高額で売れたと喜んでも、その人が新たな住宅を購入するなら、相場が上がっているわけですから、住み替え負担も高額になってしまうのです。住み替えなければ、経年劣化とともに、修繕費や改装費が発生するでしょう。
生命保険とは、随分様子が違うのではないでしょうか。相続税対策用の終身保険でも、保険料払込満了後に持ち続けても、経年劣化はありません。逆に《運用益》が付くのです。

7.そもそも生命保険は一般的な商品ではない

生命保険を《金融商品》として《商品の一角》に捉えてしまうと、確かに《商品のお値段は1,680万円》ですが、生命保険契約は『そんなに単純なものではない』ということです。
たとえば、生命保険という1つの金融商品を売っているのではなく、顧客が必要と感じる、あるいは『いらない』とは言えない死亡保障を、必要な期間提供するのが生命保険だと、心の底の部分から捉え直すなら、生命保険はもっと《手頃》な契約になり得るのです。終身保険ではなく、定期保険でも役立つからです。
しかもその時、生命保険の必要期間がたとえ10年でも、10年の定期保険ではなく《契約期間の長い保険》を選ぶと、貯蓄機能が付加される分、『10年間の保険料の実質負担は小さくなる』という保険コンサルティングに、持って行くことも可能になります。

8.立証しようとはせず謙虚な指摘を心掛ける

では、《死亡保障や解約返戻金は必要不可欠》なのでしょうか。論証であれ感情論であれ、それを立証することは難しいかも知れません。しかし『私には死亡保障や解約返戻金は無用だ』と言う人達に対しては、あれやこれやの《反論》ができるのではないでしょうか。
それも居丈高に反論するのではなく、『でもですねえ…』とか『こんな事例もありまして…』等という、柔らかい反論でも、考え方を変える顧客層が出て来るはずなのです。
一方的に立証しようとするから必要以上に難しくなるのでしょう。先方の話をよく聞くなら、《一刺し》できる部分は多く見つかるのが普通ではないでしょうか。なぜなら、生命保険は決して《役立たずではない》ことが、顧客層にもよく分かっているからです。

9.言葉上での遊びを超えた原点戻りの重要性

『それは単なる言葉遊びではないか』とも言いたくなるのですが、言葉遊びは想像以上に《強力》なものです。なぜなら、言葉は《先入観》や《思い込み》の種になるからです。
一旦『保険はナンバー2の高額商品』という言葉が、頭ではなく腹に落ちてしまうと、いつの間にか『保険は高額 ⇒ 運用効率が悪い金融商品 ⇒ 契約すると損をする』という思い込みが、社会通念になり得るのです。販売サイドは、そんな思い込みに振り回されず、言葉の魔術を離れて、現実を現実として見るために、常に《原点戻り》することを、心掛ける必要がありそうなのです。