昔の戦争映画には、たとえば潜水艦の艦長が、敵の駆逐艦の攻撃を受けて投降する際、部下を敵に委ねた後で自分だけは潜水艦に戻り、そのまま海に沈むような話がありました。これは単なる昔話ではなく、今の自社株オーナー型の経営者と従業員の姿を暗示しているかも知れません。そして、そこに《保険対話》の糸口がありそうなのです。

1.企業経営が厳しくなる中で実感すること

事業が順風満帆な時は意識さえされなくても、事業の行き詰まりや先行き不安が生じてしまう時、経営者が《ふと気付く》ことがあります。それは、先の潜水艦の例のように、従業員には転職先があっても、経営者には《わが社》しかないという実感だと思います。
普段は『この会社は私のものだ』という、自分と会社との一体性への誇らしい確信が、危機に際しては『この会社が私個人を飲み込んでしまう』という何とも言えぬ恐怖に変わるということです。《一体》とは、そういうことでしょう。

2.沈み行く潜水艦の艦長を助けられないか

しかし、戦闘に負けた潜水艦の艦長は、ただ艦とともに去るべきなのでしょうか。どこかに味方のスパイのボートがあって、密かに艦長を、沈み行く潜水艦から救出できないものでしょうか。
しかも働き方改革の進展で、結果として、経営者には従業員への様々な配慮が義務付けられ、従来のような企業所有感覚を持ちにくくなる中で、経営者が払うべき犠牲だけは、従来通りでなければならないのでしょうか。

3.もし本当に《経営責任》を感じ取るなら

そうした問題提起の内容自体が、社会的あるいは歴史的に正しいかどうかは別にして、人としての本音ベースで、経営者が、そんな意識を抱いたとしても不思議はありません。
しかも、その思いが、海難事故で真っ先に逃げる船長のような無責任なものではなく、『そうだ、この船は私だけのものではなく、私と従業員が分かち合っているものだ。だから、簡単に沈めるわけには行かないし、そのために従業員の協力も、率直に仰ぐべきだ』という《真摯な考え》に至ったらどうでしょう。

4.どんな組織にも必ず残る運命共同体意識

従業員には転職という道があるとしても、技能や年齢次第では、必ずしも容易ではあり得ません。そうした現実の中では、昭和のようでもなく平成のようでもなく、まさに令和の《運命共同体意識》が発生しないとは限らないのです。
今、中堅中小企業を顧客対象とする保険営業では、『その、経営者と従業員の運命共同体意識を具現化する手段に、企業保険は使えないか』と問うてみる必要があるはずです。

5.役員退職金目的の保険が有する別の側面

すると、たとえば、一見《経営者だけが自分の退職金の準備をする》方法に見える法人契約の終身保険や超長期保険に《別の側面》が見えて来ます。その別の側面とは、『企業が受け取る解約返戻金や死亡保険金、企業の延命策にも役立てられる』というものです。
そうすると、『経営者だけが退職金を受け取れる』のは、その会社の制度や風土の問題であり、決して生命保険固有の機能ではないことが、はっきりします。むしろ、経営者のためではなく、会社のためにこそ、経営者等を被保険者として企業保険は重要なのです。

6.生命保険の働きを現実に即して再考する

『経営者急死の時に、死亡保険金を企業に留めるのか?』と言われるかも知れません。しかし、経営者が急死した時、その時点で評価されて相続税の対象となった自社株は、相続の後に会社が倒産してしまうと、紙屑に成り果てる恐れもあります。
遺族は紙屑の相続のために相続税を支払うのでしょうか。たとえ《打算的に考える》としても、その打算は《広い視野》で捉えるべきです。しかも、どうしても遺族のために相続税納税資金を準備したいなら、経営者が生命保険を個人契約しておけばよいはずです。

7.立ち位置を変えると見える新たな可能性

以上は《1つの例》に過ぎませんが、生命保険の有用性を見る《立ち位置》を少し変えるだけで、提案の可能性は違った姿をとり始めます。昨今の《コロナ禍》でも、経営者の心境を『生命保険など考えている場合ではないだろう』と捉えるか、『企業の終焉危機を実感させられることで、従来の意識を修正する経営者も出る』と考えるかで、営業スタンスは大いに変わるはずだからです。
いずれにしても、まずは企業の艦長に、《船(企業)を所有するリスク》を実感してもらい、その後に《従業員を巻き込んだ対策の可能性》を考えさせるなら、生命保険提案にも新たな地平が見え始めるとは言えないでしょうか…。

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