経営者はある心配事を抱えていた…
ある経営者との対談中に『2028年1月から、相続時の自社株評価方式が大きく変わりそうだ』という日経新聞の会員向け記事の話を持ち出したら、『最終的に決まってから言ってくれ』と言われてしまいました。
その一方で、類似する疑問が提示されました。その疑問は、生命保険営業にも、大きく関わることでした。
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.事業承継税制の特例措置は申込済み
疑問を投げかけてきた経営者(Aさん)は、コロナ禍の前(2018年)からスタートした《事業承継税制の特例措置》の申し込みを、早い段階から済ませていました。Aさんが100%保有する自社株の評価額が相続税額を大きく引き上げそうだからです。
ただ、特例措置が《実効力》を持つためには、ご承知の通り2027年9月末までに特例承継計画の提出を済ませ、2027年末までに《先代から後継者への自社株贈与もしくは相続》が実施されていなければなりません。
2.後継者が先代より先に他界したら…
2027年末までの贈与の場合、自社株に係る贈与税は全額免除され、2028年以降であっても、先代の相続が発生した時に《相続税の対象に移行》します。そして《その自社株に係る相続税》に関しても納税は猶予されるのです。『しかし…』と、Aさんは言います。
『しかし、自社株贈与後に自分より先に後継者が他界したらどうなるのか』と言い出すのです。贈与後の自社株所有者は後継者です。そのため、自社株は後継者の相続財産になるのです。
3.事業承継税制の適用は継続が可能?
形の上では、2027年9月30日までに、後継者(子)と次期後継者(孫)が新たな特例承継計画を提出し、それが認められたら、特例措置を次期後継者が引き継ぐことは可能です。
しかし『そんなの机上の空論だ』と、Aさんは困窮します。なぜなら、『仮に後継者が9月末までに特例承継計画を提出することが可能でも、同じ年の12月31日までに、自社株を子から孫に贈与しなければならない』からです。『それとも、(2代目が)急逝するなら12月31日までにしろとでも言うのか』と、Aさんは憤懣を示します。
4.一般措置なら2028年以降も活用可
事業承継税制の特例措置の適用期限が切れても、その後も一般措置は活用できるのですが、一般措置は特例措置に比べて猶予割合が小さくなる(文末の比較表参照)のです。
『それもそうだが、誰が後継者の次の後継者になるかを決めるのには、時間が掛かる』と、Aさんは指摘します。『事業承継税制の《条件》も満たせないかも知れない』という懸念も残るのです。
そんな中で、『後継者が先に他界したら、後継者が保有する自社株は《通常の相続税課税》対象になるではないか』というのが、Aさんの心配事だったわけです。
5.一般措置でも活用すべき状況に…?
また、改めて取り上げるつもりですが、非上場株式の評価方法も、冒頭で指摘した通り、2028年から大きく変わりそうなのです。税制改正が成立すると、Aさんの後継者が持つ自社株は、現状よりも高額で評価される可能性が出ています
そうでなくても、Aさんは妻から『あなた、経営権がなくなれば、ストレスが減って長生きしそうね』と言われているようで、むしろ後継者の他界の方が心配なのです。
6.そもそもリスクは直視すべきもの!
ただ、結論から捉えるなら、後継者が先代より先に他界するのは《リスク》すなわち《通常の流れの中で生じる出来事に対する例外事情》に他なりません。単に心配するよりも《対策》が必要になる事柄です。
『国の制度は不十分だ』と捉える前に、『どんなことにもリスクは必ずあるから、心配なら準備が必要だ』と捉えるべきでしょう。そしてこのケースで最もシンプルな対策は、後継者を被保険者とする終身保険や超長期定期保険を契約することでしょう。
もちろん次の後継者不在のケース等では、会社売却の用意を進めることも、対策の1つに入ります。
7.法人契約でも対策可能ではあるが…
生命保険活用の際には、法人で契約し、死亡保険金を法人から後継者の遺族に《死亡退職金》として支払うこともできます。しかし、そうした回り道よりも、後継者が個人で契約する方が《確実》かも知れません。
しかも、終身保険や超長期定期保険なら、年齢順に他界が生じる時でも、決して無駄にはならないはずです。後継者の相続人の納税資金に充てられるからです。
8.デメリットを補ってメリットを実現
『保険かあ』とつぶやくAさんに、『自社株に係る相続税が納税猶予されるのだから、それくらいの負担をしてもよいのではないか』とは、敢えて申しませんでした。よく考えて《自ら納得する》のが一番だからです。
ただ『最近、保険業界には不祥事もあるし…』というAさんの言葉には、『車で、1つの車種が事故を起こしたからと言って、その車種全てが危険だとは言えませんよね』とは申し上げました。
後から考えて、『もう少し説得力のある言い方をすればよかった』と反省してしまったのですが…。
9.逆風はいつの時代も吹き続けて来た
今、個人の暮らしにも、中堅中小企業のビジネスにも、様々な《逆風》が吹き続けています。『あれが危ない、これが限界』という経済評論のみならず、『大災害の到来』を危惧する声も、益々大きくなって来ています。戦争の危惧をする人さえいます。
しかし何がどうであれ、『この世はままならない』ことをしっかり《意識》して、『自分にできる備えをする』ことのみが、もしかしたら《唯一の現実把握であり実効的な対策の素》なのかも知れません。
いつの時代も危険に満ちていました。現在や近未来が《安全で万全だ》と捉える方が、どんなに言葉を選んでも《幻想》なのかも知れないのです。
【補足】特例措置と一般措置比較表(事業承継税制)


