(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
それが良いことか悪いことかは別として、現実に私たちの社会は、大きく変化しつつあります。そして敢えて言うなら、かつて、人生の節目で生命保険を当たり前に検討した、いわゆる《中間層》が、大きくその数を減らしているのです。
生命保険の個人アプローチに際しては、この現実を無視することはできません。
1.個人所得水準の《二極分化》の中で…
経済全体が元気をなくすと、一般には、いわゆる《所得の中間層》が富裕層や低所得層に二分化して、次第に数を減らす傾向があるとされます。逆に経済が若々しい力に充ちていた昭和の高度成長期には《一億総中流:国民の圧倒的多数が自分を中流だと感じている》と言われたものです。
そのため、個人への生命保険アプローチも、圧倒的多数へ典型的な《節目提案》スタンスで臨むことで、一定の効果が得られていたと捉えられるのです。
2.生命保険は安いから買うものでもない
それが平成期に入って、生命保険営業が行き詰まり始めるにつれ、顧客の新たなニーズを発見して、それをサポートするような《提案型営業》が注目され始めました。しかし、それは高額所得者や資産家向けに限られ、一般個人へのアプローチ法は、そう大きく変わらなかったかも知れないのです。
もちろん、最近ではマスメディアのCMやインターネットで、安価な生命保険や医療保険をアピールする傾向が強くなっていますが、そもそも保険は、他の多くの商品のように《安いから買う》というものでもないはずです。では、今後の個人向け営業は、どうあるべきなのでしょうか。
3.まず顧客のセグメント(分類)から?
マーケティング理論なら、まずは《顧客のセグメント》から着手するかも知れません。しかも、そのセグメントは、たとえば《富裕層》等という大雑把な分け方ではなく、不動産所有型富裕層、事業や株式所有型富裕層、金融資産や貯蓄所有型富裕層、高給型富裕層等、可能な限り詳細に分類されるでしょう。分類すればするほど、その分類ごとの《リスク》が見えやすくなるからです。
ところが、《リスク》が見えても、それが生命保険でカバーすべきものだとは限りません。そのため、セグメントすればするほど《保険話題の切り出し》が難しくなるのです。
4.だから、ワイルドカード的話題が貴重
では、どうするか。
《一億総中流》ではなくなったとしても、《誰にでも身近》でしかも《生命保険に繋げやすい》という性質を持つ《ワイルドカード》的な話題を持つことが、今非常に重要になっていると言えるでしょう。
そんなワイルドカード的話題とは、従来の《リスク》という大きな《総論》から、大きく一歩《各論》に踏み込んだ《人間関係の保全》に他なりません。
5.人間関係保全に際し保険にできること
人間関係を良好に保つ、良好とまでは行かなくても《それなりに保つ》というニーズは、富裕層にも中間層にも厳しい中にいる層にも共通します。それどころか、家庭を持つ人にも独身者にも、若者にも高齢者にも《保つべき人間関係》はあるはずなのです。
そして《人間関係》を基盤テーマとして、たとえば《特定の人に死亡保険金を残す》とか《危急の時にも、大切な人に迷惑をかけない自活力を保つ》とか、《不都合が生じた時に助け合う経済関係基盤を作る》とか、生命保険にできそうな策を考えるわけです。
6.たとえば独身者の生命保険の検討動機
たとえば、親の期待や干渉から少し距離を置きたい独身者が、自分を被保険者、親を受取人にして終身保険を契約するようなケースをイメージしてみましょう。
すると、親が《結婚》を強く求めた場合でも、『私にもしものことがあった時のために、死亡保険を用意してある』と言える(あるいは思える)なら、それが的を射た応答かどうかは別にして、親子の情に流されて結婚に悩まされる危険も少なくなりそうです。
しかも、その独身者が高齢に達した時は、終身保険の解約返戻金が役立ちます。終身保険は、単に老後準備のみならず、《独身者の覚悟》を親に表明する道具にもなるのです。
7.あるいは保険料負担が厳しい顧客も…
それが現実的かどうかは、トークのストーリーをもっと具体的に組み立てながら考えるとして、少なくとも《生命保険は人間関係円滑化の道具》だと捉えるなら、ゲーム的な感覚で、様々な提案ストーリーを思い付くようになれるのではないでしょうか。
たとえば『保険料が負担できない』という夫に対して、『ご自身の万が一の時に、奥様とお子様に死亡保険金が支払われるようにするから、少し節約に協力して欲しいと話してみてはどうか』と持ち掛けます。しかも『家族が、ある程度でも働けるなら、死亡保障額は少額で済み、貯蓄型の生命保険も検討対象になり得る。そうすると、元気で老後を迎えた時に、ご夫婦の老後資金原資にもできる』というストーリーも作れます。保険料支払いのために《共同で節約する》という発想が、家族の《経済的な絆》になり得るとも言えるのです。
もちろん、提案先が富裕層なら、相続財産の分配法や相続や争続問題に関し、親子関係を起点に、様々なストーリーが組み立てられます。
8.ここでは斬り込みアイデアを考える!
その意味では、個人向けの生命保険は、今やフットワーク勝負ではなく《アイデア勝負》になったと言えるかも知れません。もはや、富裕層には生命保険の魅力は必ずしも濃くありませんし、低所得層には保険料負担が難しいからです。中間層では、家族が皆経済力を持つケースが多く、『死亡保障が必要か?』という気分が蔓延しているとも捉えなければならないでしょう。
だからそこに、たとえば『人間関係が良い場合と悪い場合では、経済的にも精神的にも負担の大きさが変わってしまう』というスタンスで斬り込むわけです。このサイトでは、そんな《斬り込み》アイデアを具体化して行こうと考えています。