白地から保険の対話ができるようになるまで…

固有名詞で相手を見ることの意味
見込先あるいは、それ以前の段階にある先と《保険の対話》ができるようになるためには、何がどのように必要なのでしょうか。それは《どこまで相手を固有名詞で見ることができるか》にかかると言えそうなのです。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.《保険を売る前に顔を売れ》の真意?

昔から『生命保険に関心を持ってもらおうとするなら、まず顧客に関心を持て』と言われて来ました。実際には『保険を売る前に顔を売れ』と表現されることが多かったようですが、顔を売るためには、まず当方から先方に《関心》を示さなければなりません。

なぜなら、私たちには、自分に関心を持ってくれる人に関心を示す傾向があるからです。自分に無関心な人とは、交流するイメージさえ持てないでしょう。

2.たとえ見ず知らずの人に対してでも…

たとえば、公園で犬の散歩をしている人に、『落ち着いたワンちゃんですね。いま、お幾つなのですか』と声を掛けると、犬の話で盛り上がる可能性が出て来ます。飼い主さんは《私》を、対話相手として認知してくれたはずです。

いずれまた、話す機会が出来て、その飼い主さんと職業の話が始まったような時、その人の職業に関心を示しながら、『実は、私は生命保険の営業者で…』と名乗ることができるかも知れません。

しかし、そんな《少しだけ踏み込んだ話》が始まりそうな時こそ、《私》の関心ではなく、相手の関心を大事にする必要があるのです。

3.相手に関心を示し得る自己紹介的対話

そんな時には、たとえば『あっ、保険営業と言うと、皆さん警戒されましてね』という類の《裏話的》な配慮をするということです。いきなり保険の話を始めるのではなく、いわば『保険の話を始めたいわけではない』という姿勢を示すわけです。

保険の話が始まりそうな雰囲気になると、相手は《顧客》になります。顧客は、特定の誰でもない《抽象的な存在》でしかありません。相手も『ああ、この人私を見ているのではなく、私をお客にしたいだけだ』と感じます。

4.関心は特定の存在に向けられるもの!

特別の《私》ではなく《その他大勢の中の一人》と見られることは、誰にとっても愉快なことではないでしょう。保険営業に携わる皆様でも、『ああ保険屋か』と言われるのが愉快ではないのと同じだと思います。

そして、ここまでが《顔を売る》というステップだと捉えるべきでしょう。《顔》と言うのは、保険営業に携わってはいるけれども《私個人の存在感》と捉えるべきものです。営業者という一般名詞ではなく、北村(仮名)という固有名詞で見られることです。

5.他者に示すべき最低限の関心とは…?

そして、《私》が固有名詞で見られるためには、相手も《顧客》や《見込み先》という一般名詞ではなく、南沢(仮名)さんという《存在の特定》が必要になるはずなのです。

関心、つまり《固有名詞で見てもらう》ためには、相手をも関心、つまり固有名詞で捉えることが基本だということでしょう。これが、持つべき関心の《最低限》です。

6.対話相手が経営者の場合は事情が違う

ただし相手が経営者の場合は、《固有名詞》ではなく、《事業そのもの》に関心を示すべきでしょう。もちろん、事業の話を聞くだけで、実際のイメージが持てるケースは多いとは言えませんので、《事業の内容》よりも《経営者としての日々の苦労》に関心を寄せるべきだと思います。

どんな契約形態をとっていても、生命保険営業は《独立事業》に近いため、経営者の苦労には《共感》できる部分が多いはずです。経営者にとっても『話ができる相手』であるはずだということです。

7.親しくなるだけに留まらないステップ

しかし『親しくなっても、保険のホの字も出せない』という事態は、決して少なくないでしょう。ホの音を聞いた途端に、引く相手も少ないとは言えません。それほど、保険営業者は恐れられていると言うべきでしょうか…。

ただ、だからこそ、保険営業者の皆様も《営業者としての苦労談》を語るべきだと言えるのです。もちろん、苦労を自慢するのではなく『もっと《やりよう》があったのに、なかなかうまくやれない』という謙虚な話をするわけです。成約(成功)の話は、相手にとっては、面白くもなんともない話題でしょう。共感の余地も生まれません。

8.対話相手の意見を聞けることが分岐点

そして、その次の段階として、『生命保険契約に対する印象や意見を聞けるかどうか』が、更に関係が発展するかどうかの分岐点になるはずです。なぜなら、『こんな保険の提案の仕方は、まずかったのでしょうか』という形で、《事例》を話せるかどうかの見極め段階に達するからです。

経営コンサルティングでは、ここまでの関係を築けた先を《協力者》と呼びます。なぜなら、その見解を聞くだけでも《生きた学習》ができますし、場合によっては《紹介》が得られることがありますし、更には『そんなことなら、うちで試してもいいよ。安くしておいてね』等と受け入れられることもあるからです。

9.メリットなしには協力等は得られない

もちろん、協力者にもメリットが必要です。ただ、その際のメリットは、他者から得た様々な情報を、個人情報漏洩にならない範囲で提供することだと思います。非常に多様な顧客と接する保険営業者だからこそ知り得る《智恵》や《知識》があることは、保険営業者の皆様よりも、顧客層の方が強く感じているはずです。

逆に、その際《紹介料を支払う》ようなビジネス関係は結ばない方が得策でしょう。プライスレスな情報交換の方が、価値を持続しやすいからです。お金が絡むと、最初はスムーズでも、徐々に、払う方は重荷になり、受け取る方は『これっぽっち』と感じるようになってしまいやすいのです。

10.目指すべきは《営業構造》作りにある

ここまで来ると、《顔を売る》から《生産性のある関係を作った》と言えるようになるはずです。そして、この関係に発展した先は、何らかの形で、新たな契約の可能性を運んでくれるか、そうでなくとも《顧問》のような存在になってくれる可能性があるからです。《顔》が《関係》になり、《関係》が《営業構造》に発展して行くわけです。  

そして、その際の謝意でも、たとえば《アポをとった対話》の際に《食事代を出す》程度が、最も効果的と言えるのです。過ぎたるはなお及ばざるがごとし…、です。

関連記事