人生100年時代と言われると、どうしても死亡リスクよりも、長生きした場合の生計維持に焦点が移りがちです。しかも、死亡保障を検討する時でも、保障額の検討は、従来とは異なるものになりそうなのです。たとえば、夫の死後も長生きする妻の《生涯保障》など、到底無理に見えるからです。
しかし、そこに《生命保険に対する別の目》が生じることも見逃すべきではありません

1.死亡保障が《ピン》と来なくなった現代的事情

ビジネスマン(サラリーマン)のAさんは、『65歳までの死亡保障と言われてもピンと来ない』と言います。なぜなら『たぶん死なないから…』なのだそうです。二世経営者のBさんは『(先代経営者を被保険者としてBさんが契約している)相続税納税対策の終身保険は、別の目的で使うつもり』なのだそうです。その理由も『親は、なかなか死なないだろうから…』と、やはりAさんと同じなのです。
実際は、誰もが長生きするわけではありませんが、社会感覚として、今“死亡保障”への関心は薄れてしまっているのかも知れません。

2.保障期間中に死なないならば生命保険は無益?

もちろん、“死”は予想外に訪れるものですから、死亡保障が全く必要ないケースも少ないはずです。ただ死亡保障は、たとえば定期生命保険のように、保障期間が過ぎると支払った保険料を取り戻せないというリスクの方を大きく感じさせるものになったということなのかも知れません。
同時に子供が少なく、夫婦が共に働いているような家庭では、残された配偶者には生活力があり、子供はいずれ自分で生計を立てるとすれば、多額の死亡保障は不要でしょう。法人でも、経営者が生命保険の被保険者だからと言って、信用が増大するような時代ではなさそうなのです。

3.小さなダメージが《その後》の可能性を変える

しかし、それは《生命保険の役割の終了》を意味するのではなく、結論を急ぐなら、死亡保障額は小さいけれども解約返戻金が受け取れる生命保険への注目を招く契機だとも言えるはずなのです。
たとえば夫婦双方に生活力があっても、どちらかが突然死亡してしまうと、日常が一変します。そのダメージは、精神的なものに留まらず、仕事の継続を難しくするケースも少なくないのです。2人でしていたことを、1人でしなければならなくなるからです。子供が小さいなら、なおさらでしょう。それは、夫と妻の両方に言えることで、今や世帯主だけが被保険者になれば良いというものでもないのです。

4.死亡保障額は《一時の混乱回避》のために設定

一方、企業でも経営者が突然他界すると企業活動は混乱します。その混乱には、取引先や金融機関も注目するでしょう。その後の可能性を判定する材料になるからです。
そんな時、金額はそれほど大きくなくても、法人が死亡保険金を受け取れるなら、組織内に《落ち着いて考える時間の余裕》が生まれます。数ヶ月でも余裕が持てれば、組織は、たとえ仮案でも、体制を立て直し策を作り得るかも知れません。逆に“数ヶ月”しか余裕がないなら、各人の《本気度》も、むしろ加速しそうです。そんな姿を見る取引先や金融機関も《安心》できそうです。
家庭でも同様で、『この死亡保険金が余裕を作ってくれているうちに次へ進まなければならない』と覚悟を決め得るなら、それは死亡保障の効果そのものなのです。つまり今や、死亡保障は高いほど良いという状況ではないということです。

5.たとえ少額でも《まとまった資金》の働きは大

その一方で、企業では経営者が高齢化した時に、家庭では夫婦が晩年を迎えた時に、契約主体が解約返戻金を受け取れるのは、想像以上に心強いのではないでしょうか。
企業でも個人でも、《当面の資金》を失うから破産するのです。たとえば、マンションを購入したばかりのCさんは、6ヶ月間のローン滞納で自宅を差し押さえられ、その数ヶ月後には自宅が競売に掛けられたのだそうです。その金額は100万円に達していません。
破産のような大事ではなく、生活や事業再建に際してでも、時間的な余裕を持てるか、せかされてしまうかで、判断の適否が左右されることもあり得ます。たとえ十分な額ではなくとも《まとまった資金》のパワーは大きいのです。

6.生命保険の営業トークを見直す現代的な方向性

そんな風に捉えると、死亡保障額は大きくなくとも、一定期間経過後にはそれ相当の解約返戻金が得られるタイプの生命保険は、現代という《時代性》に合致しているとも言えます。もちろん相続税納税対策には、場合によっては巨額な現金を生む生命保険が必要でしょうが、そんな時でも、事業承継税制の活用や、相続人に財産の一部売却を行うような才覚があれば、問題は回避できるでしょう。
ちょっとした心と資金の準備が、まさかの時の判断を適正化し、その後の活動のエネルギー源になるとしたら、生命保険のトークも、基本的に見直すべき時に来ているのかも知れません。