見込み先や見込み先以前の《開拓先》とのコミュニケーションは、しばしば暗礁に乗り上げることがあります。それどころか、保険の話が一切できないケースも出るでしょう。そんな障壁を乗り越える方法があるのでしょうか?
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.話が巧みなだけでは問題が残る
そもそも《コミュニケーション》力は、どのように磨けるのでしょうか。その方法は多様かも知れませんが、『少なくとも話し上手になろうとすることではない』と指摘する人もいるようです。それは一種の極論ではありますが、しばしば《話し上手》を自負する人が長々と自分の話をするために、聞き手に《うんざり》されるケースがあるからなのかも知れません。
ではなぜ《話はうまい》のに、聞き手を《うんざり》させてしまうのでしょうか。それは《良きコミュニケーションの原則》にも関わることのようなのです。
2.聞き手の《理解》こそが決め手
コミュニケーションが《相互に伝え合う》ことだとしても、《伝える》より《伝わる》ことの方が重要でしょう。どんなに流暢に話しても、その内容や意図が伝わらないなら、コミュニケーションが始まるはずもないからです。
そして《伝わる》のは、聞き手が《理解できた》ことだけなのです。たとえば完璧に近い保険の話ができた時でも、聞き手がその内容を《理解》できなければ、『ああ、この人は保険を売りたいだけで、私のことは考えてくれていない』という印象しか伝わらないかも知れません。そのため、その聞き手が『今後は、この人に関わらない方がいいな』という姿勢になっても不思議はないのです。
3.ただ《理解の共有》は至難の業
しかし、《聞き手が理解できる話をする》のは至難の業でしょう。何をどこまで理解しているかは、こう言って良ければ、聞き手自身もよく分かっていないことが多いからです。聞き手が『ああ、分かりました』と言っても、本当に分かっているかどうかは疑わしいということです。
そのため、結果としてではあっても《理解させよう》とするコミュニケーションは、ほとんどいつも暗礁に乗り上げる危険を伴います。お互いが自分でさえ、理解しているかどうか分からないのに、そもそも《分からせるための技法》等あり得ないとさえ言えそうだからです。
4.迂回しながら理解共有に至る道
しかし何かを共有しなければ、コミュニケーションは始まりません。そこで、《理解》ではなく《疑問》を共有してはどうかと捉え直してみるわけです。
《疑問》は、当然《分からないこと》ですから、『確かに、それは分かりませんね。理解するのは難しいですよね』という形の《共有》なら容易です。たとえば『なぜ、私たちの体温は37℃前後なのでしょうね。不思議ですね』と言えば、『そうですね。なぜでしょうね』という《共有状態》を作りやすいということです。
5.疑問と共感が対話を発展させる
しかも、その《体温への疑問》が、対話の相手方からもたらされたものであれば、『そうですよね。不思議ですね』と応答しながら、『疑問の持ち方がユニークで鋭いですね』という《共感》姿勢を経て、『どうして、そんな疑問を持たれるのですか』という問い掛けが可能になります。
もちろん『あなたには関係ないことです』と、はねつけられるケースもあるでしょうが、『実はね…』と、相手は何か《自分の思い》を話し始めるかも知れないのです。
6.話の方向性に少し手を加えると
その相手は《知識人》で、『この前読んだ記事によると、大昔に恐竜が滅んだのは、巨大隕石が地球に衝突したことが原因らしい。その衝突で大量の塵(ちり)が大気中を漂い、太陽光線が遮られた為に地球が一気に寒冷化して、体温が一定しない変温動物である恐竜が、真っ先に死滅したかららしい』等と、言い始めるかも知れません。
そして『その地球の寒冷化の時から、体温が一定している哺乳類の繁栄が始まったらしい。もう恐竜の餌にならなくて済むから。そして、その後哺乳類の時代が来たと言うのだけれど…』と言いながら、『残念ながら、哺乳類の体温がなぜ37℃前後なのか、その肝心なことは書かれていなかった』と話を締め括るかも知れないわけです。
難しい話ですが、そんな時も《共感姿勢》を貫きます。ただし、少し《話の方向》を変えてみるのです。
7.自然な形で保険の話が始まった
つまり、『そうなんですよね。何だかいつも、肝心の《知りたいこと》が放っておかれる傾向がありますよね』と共感を示しながら、『私にも、そんな経験があります』と、方向を変えてみるということです。
その時、相手が乗ってくれば、あるいは乗らないまでも、まだ対話を続けているなら、『生命保険(医療保険)でも、肝心なことがなかなか、お客様に伝わっていないことが少なくありません』と言ってみます。すると、相手は『伝わっていない肝心なことって?』と、疑問を返して来る可能性があるのです。疑問は《返しやすい》ものだからです。
その時《疑問共有型のコミュニケーション》で、しかも《保険の話》が始まることになります。
8.更に伝えたいことまで伝わった
更に、保険の内容の話を急がず、『保険の《ほ》の字を出すだけで、その話は不要って言われることがあるんです。もしかしたら、大事な話や有益な話かも知れないのに、どうしてなんでしょうね』と、更に疑問共有状態を続けてみます。すると、相手は『保険の話は聞き飽きているからでしょう』とか、『結局、保険を買わないなら時間の無駄だからですよ』等と、何らかの《答》を提示しやすくなっているでしょう。
さて、チャンスが来ました。こちらも《答》を返す番です。それが見込み先であれ、開発先であれ、『実は、保険のココを見て欲しいのです』と言えるからです。それも『あなたに』ではなく、『できるだけ多くの方に』として、直接的な営業ではない《客観トーク》あるいは《気付き促進トーク》に持って行けるのです。
9.言いたいことを言う機会は貴重
以上の話は《一例》に過ぎませんが、《疑問の共有》を意識するだけで、コミュニケーションは格段に始めやすくなり、急いで《疑問共有》から抜け出そうとしない姿勢を持つことで、《言いたいことを言う》チャンスが生まれやすいという例にはなっているはずです。
その《言いたいこと》に共感するかどうかは相手次第ですが、話を聞いてくれないままでいるよりは、ずっと成約に至る可能性が高いでしょう。
事務局からのお知らせ
以上のような着想をベースに、2024年4月から2025年3月までに、新日本保険新聞(生保版)の第4週第3面に《顧客の背中を押す疑問共有型アプローチ》と題して、12回シリーズの《企画記事》を寄稿致しました。今こそ、一歩も二歩も踏み込んだコミュニケーションを行わないと、生命保険や医療保険は、顧客層から《安易》に捉えられやすいと懸念したからです。
新聞原稿の再掲は致しませんが、少し別の視点から、同じテーマの講座を作成しています。現代的感覚でのコミュニケーション力を磨きたい皆様に、少しでもお役に立てれば幸いです。その詳細は、以下からご覧いただけます。