最近では《日本は豊かな国だ》という見解は減って来ていますが、それでも戦後やその後の復興期に比べれば、豊かなのは事実でしょう。ところが、その豊かさがもたらす《所有リスク》が今、法人や個人の間で大問題になりつつあるのです。

1.虎は死して皮を留め人は死して名を残す

かなり昔、こんな言い回しが流行したことがありました。それは『虎が死んだら皮残す、人が死んだら名を残す。ニワトリ死んだら何残す。共同募金の羽残す』というもので、小中学校の生徒の間で流行ったもののようです。しかしこの言葉の源は《諺》です。
中国の唐の滅亡(907年)から北宋の統一(979年)までの短期間に、5つの王朝と10の周辺国が乱立する《五代十国時代》がありました。その五代の最初の王朝である後梁(こうりょう)の勇猛な武将であった王彦章(おうげんしょう)が、敵への帰順を拒否して最期に残したのが『豹(ひょう)は死して皮を留め、人は死して名を留む』という言葉だったのだそうです。

2.珍重される皮を残すような立派な生き方

《豹》が、いつの間に《虎》になったかは不明ですが、いずれも死後に《皮》が珍重されます。そのため、王彦章は『皮を残す豹のように、私は立派に名を残したい』と言って斬首されたのでしょう。確かに、この潔い武将は、後世に名を残しました。
ただ日本の明治時代以降の、いわゆる《文明開化》の後は、『人は名ばかりではなく、死後に財産や事業を残す』という言い回しの方が適切化して来たかも知れません。

3.迷惑な《皮》もたくさん残るようになる

しかも、経済社会が豊かになると《人が残すもの》が多様化して来ます。資産家は資産を残し、事業家は事業や会社を残すのですが、一般の人も、マイホームや車、芸術品や趣向品、パソコンや他の家電製品等様々なものを残すからです。
もちろん、それらは《資産》であるはずですが、最近ではマイホームでさえ、残される側では《迷惑》になる場合が多いのです。人口減少の中では、土地や家屋の使い道は乏しく、その上《買い手》がつかないケースが出て来るからです。

4.親の家を空き家にしておくだけでも大変

誰も住まない家を相続してしまうと、それを売らない限り、空き家にしておかなければなりません。そして空き家にすると、今の法律では、更地と同程度の固定資産税が掛かってしまう恐れが出ます。
一方で、環境保全志向が強くなった中では、家屋も含めた《財産》は、余程価値があるものでなければ《処分》せざるを得ず、その費用が高く付くのです。
昔とは比べものにならない程多い、衣服や靴、鞄や書籍や書類、家具や調度品等も、引き取り手はほとんどないでしょう。全て費用を掛けて処分しなければなりません。それは費用のみならず、残された者にとっては、時に重労働にもなります。

5.経営者亡き後の《会社》はどうなるか?

その一方で、会社や社屋、機械什器等、法人が所有するものはどうでしょうか。経営者他界後、会社組織が生き残るなら、経営者が保有していた自社株を、誰かが相続税を支払って継承しなければなりません。
しかも相続税を支払った後で会社が倒産するなら、新しい株主の手元には、廃墟の山と従業員が残るだけです。さて、どうすれば良いのでしょうか。
ここで重要になるのは、不要物処理を《押し付けられる》形になる相続人にとって、被相続人は《名》を残すよりも、《憤慨》を呼び起こす対象になるかも知れないということです。

6.社会環境の大きな変化で財産感覚も変化

今、そんな時代になりました。以前そうではなかったのは、《モノ》の普及がまだまだ不十分であるため、残されたモノの価値を感じることができた上に、人口増加で《土地》は先々利益を生む可能性が高かったからでしょう。
今、後世に財産を残すのみならず、後世にとっては《ゴミ》になり得るモノを残してしまう懸念を持つべき時代になったということです。そしてゴミを残してしまうなら、その処分費用も残しておくのが礼儀かも知れません。

7.問題は老後ばかりではなく死後にも残る

たとえ、直ぐに生命保険の提案に繋がらなくても、個人や法人経営者に、《自分の老後》ばかりではなく《自分が死んだ後》をイメージしてもらうことが、以前とは比べものにならない程、重要になって来ています。
死ぬ時、その瞬間に当人の人生は終わりますが、財産や事業やモノが適切に処分あるいは承継されるまで、その人の《実質的な人生》に終わりは来ないからです。そんな中で、『死後のことは知らない』と豪語できるでしょうか。

8.保険を感じる雰囲気作りもトークの課題

もちろん、『死んだ後のために、相続税納税資金や持ち物の処分費用を用意しよう』という保険提案も、有りだとは思います。しかし、もっと大事なことは、保険ユーザーが『私の人生の影響力は、私が作った会社や蓄財や個人的にしか価値がない持ち物等が、落ち着くべきところに落ち着くまで、終わったとは言えない』と深く感じることだと思います。
そんな話ができれば、相続税や持ち物の処分費用や葬儀代等のような直接的なものばかりではなく、死後の家族の生き様にも意識が及びやすくなるために、様々なタイプの生命保険の提案基礎ができるからです。
『こうだから保険は必要だ』という説得話法のみならず、《保険を必要だと感じる雰囲気を作る》ことも、これからの生命保険トークの課題になると言えそうです。

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