提案型営業を展開する多くの業界で、名うての営業者が『生命保険営業は難しい(からやりたくない)』という類の話をします。そして、その理由を『保険が目に見えない商品だからだ』とするのですが、それは少し違うかも知れません。商品が目に見えないのは、生命保険だけではないからです。
逆に、生命保険でも、その働きを《見せる》ことが可能でしょう。

1.実は生命保険は“リスク対策商品”ではない?!

生命保険は、必ずしも《リスク対策》商品とは言えないかも知れません。なぜなら、被保険者死亡で発生するリスクの実相がどうであれ、契約上の《死亡保険金》つまり《お金》が支払われるだけだからです。
実際上のリスク回避の可能性は、死亡保険金を受け取った人の《お金の使い方》に掛かります。そのため、普段でも、お金の使い方が下手な人、あるいは毎月定額の給与の中でしか暮らせていない人には、保険金の効果をイメージすることも、案外難しいのです。
死亡保険金のみならず、解約返戻金でも同じです。

2.ライフプラン・ソフトが複雑にした保険検討?

そのため、生命保険が顧客に“有益だ”と認められるためには、死亡保険金や解約返戻金の“使い方”が受取人にイメージされた時に限られるという言い方もできそうです。
ただ以前なら、被保険者たる世帯主の死亡に際し、《妻や子供が生活に困らないこと》が、死亡保険金の“使い途”でした。用途が漠然としていた分、こう言ってよければ、分かりやすかったわけです。
ところが、たとえばライフプランソフトのような詳細な計算道具の登場で、『安心のためには“いくら”必要になるの?』という形の具体的な発想が求められるようになり、一気に生命保険検討が複雑化した側面もあるかも知れません。もちろん営業者の適切なリードのおかげで自分の答を見つけ出せる顧客もいるでしょうが、本来、“分からない”ことは“判断”の対象になり得ません。いつ死ぬか分からない老後の保障も同様です。

3.《見えない》のではなく効用が《分からない》

つまり生命保険は、商品が見えないのではなく、《効用がよく分からない》ものになったということでしょう。もちろん、保険内容が複雑だから分からないのではありません。効用を実感するために必要な、被保険者が死亡した時の《残された者の負担の大きさ》や契約者自身の《老後の長さ》が分からないのです。

4.たとえば《自分の老後保障》をするケースでは

たとえば、契約者自身が生命保険の解約返戻金で自分の老後保障をするような場合でも、漠然と老後を捉えると、何も見えなくなります。しかし、たとえば『公的年金受給は70歳まで繰り延べる。仕事は65歳までする。だから5年間の生活資金が必要だ』と、具体的に考えてみるとどうでしょう。
一気に計算がしやすくなるはずです。もちろん、ここで考えるのは《最低必要額》です。《豊かな暮らし》がしたいなら、66歳以降もアルバイトをすればよいでしょう。生命保険は危機に備えるものであり、豊かになるためのものではないでしょう。

5.老後対策ならなぜ貯蓄や投資信託にしないのか

しかし、65歳から70歳までの5年間の生活保障に、なぜ生命保険の解約返戻金を当てるのでしょうか。それは当然、私たちが《いつ死ぬか》分からないからです。夫婦の場合、片方が死亡すると、死亡した配偶者に収入があってもなくても、通常生活は破綻します。今まで通りの仕事を続けられなくなるかも知れません。配偶者に収入があった場合は、なおさらです。そのため、夫婦が互いに死亡保障をし合う必要が出るのです。

6.子が独身(主義)者であるようなケースでも…

独身者の親子関係でも、本来は相互に死亡保障をし合うべきでしょう。親がタンス預金をたくさん持っている場合は、子だけが被保険者になれば良いかも知れません。親より先に子が死ぬと、親は一気に《孤立》してしまうからです。タンス預金だけでは対応できないケースも多いでしょう。
子が生命保険契約をしている分、親は子に何らかの見返り考えるべきでしょうが、それは親子間の問題です。

7.例話で生命保険の効用に明るいライトを当てる

もちろん、生命保険は契約しなければならないものではありません。そのため、契約の必要性を《立論》しようとしても反論には勝てないでしょう。しかし、生命保険の効用を、Aさんはこんな理由で契約し、Bさんはこう考えて生命保険に入りましたという《例話》で、保険の効用がイメージできるなら、その話への共感者は検討をし始めるはずです。
つまり、生命保険は《例話》を《共感》という《目》に移す、つまり《共感》が見る商品だと言えるのです。
生命保険を《見えるもの》にするものとは、共感を誘う《例話》に他ならず、その《例話》の工夫こそが、生命保険の営業の基盤作りになるはずだと、申し上げたく思います。

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