事業承継税制の話題は保険営業にプラスか?

保険の話の《きっかけ》作りに効果的
事業承継税制の特例措置の申込期限、すなわち《特例承継計画書の提出期限》は、当初は2023年3月31日まででしたが、その後2026年3月31日にまで延長され、更に2026年度の税制改正で《2027年9月末まで》再延長されました。これは生命保険営業にとって、プラスに働くのでしょうか。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.申込期限が再延長された特例措置

事業承継税制の特例措置は、ご承知の通り、未上場企業の経営者が保有する《自社株》の100%を、事業後継者に2027年末までに贈与しておくと、その贈与税納税は猶予され、先代経営者の死亡時には贈与税が免除された上で相続税に移行しますが、一定の条件下で、対象株式に掛かる相続税の納税猶予を継続できる制度です。
これには、自社株を保有する経営者の相続負担が軽減されるという点で、生命保険提案を少額化できる故に勧めやすくなるという利点がありました。更には、その事業後継者も、生命保険提案のアプローチ対象になり得るのです。

2.経営者へのアプローチ大義が発生

しかも、申込期限が2027年9月末まで伸びたとは言え、自社株贈与は2027年12月末までに行わなければならないために、『社長ご存じですか。検討されるなら急いだ方がよろしいかと思って…』というアプローチ大義も生まれるのです。
ただし、申込(特例承継計画書提出)には、経営革新等支援機関(認定を取得した会計事務所等)の助言が必須となるため、制度活用自体は《保険営業ペース》で進められるものではありません。

3.保険営業スタンスでの取り組み

そのため、捉えようによっては、保険営業上では『ご存じですか?』と聞いた後、制度の導入まで《共に歩む必要がない》のです。もっぱら、コミュニケーション開始をきっかけに、保険の話を切り出すチャンスを作り出すことに専念できるということです。
制度活用の勧め自体は『認定支援機関をご一緒に探しましょうか』という程度の支援で十分でしょう。

4.特例措置終了後は一般措置で…

なお、事業承継税制の《特例措置》は、申込期限となる2027年9月末で、実質的に終了しますが、今のところ、《一般措置》はその後も継続します。2026年4月現在の両者の違いは以下の通りですが、経営者の相続人の負担軽減には、一般措置の効果も軽視はできないと思います。

特例措置一般措置
事前の計画策定提出特例承継計画の提出
(2018/4/1~2027/9/30)
不要
適用期限10年以内の贈与・相続
(2018/1/1~2027/12/31)
なし
対象株数全ての発行済議決権株式発行済議決権株式の3分の2が上限
納税猶予割合贈与相続共に100%贈与100%:相続80%
先代と後継者の要件
(承継パターン)
複数株主(代表者以外も含む)
から代表権を有する
最大3人の後継者へ適用
代表権を有する又は有していた
複数の株主から
1人の後継者へ適用
雇用確保要件実質撤廃
平均8割を下回った理由を記載
した書類の提出で納税猶予継続
承継後5年間平均で
8割以上の雇用維持が必要
経営環境変化
に応じた減免
一定の要件を満たす場合に
廃業時や売却時の株価を基に
納税額を再計算し
承継時の株価を基に計算された
納税額との差額を免除
自主廃業や株式売却時に
株価が下落していても
承継時の株価を基に納税
贈与時における
後継者の役員要件
贈与の直前において役員であること贈与の日までに役員就任から
3年以上経過していること
贈与時における
後継者の役員要件
特例承継計画に特例後継者として
記載されている者であれば
相続の直前における役員要件不要
(先代経営者の死亡年齢問わず)
先代経営者が70歳以上死亡時には
相続開始の直前において
役員でなければならない
(70歳未満の死亡は役員要件不要)
贈与税猶予取り消し時
の相続時精算課税適用範囲
60歳以上の贈与者から
18歳以上の後継者への贈与
(親族外へ対象拡大)
60歳以上の贈与者から
18歳以上の子及び孫への贈与

ただし、一般措置の話を切り出す時には、申請書の提出まで《経営者と付き合う》必要が出そうです。現在のところ一般措置では、経営革新等支援機関の助言は必須条件となっていないからです。

5.営業方向①:特例措置申込済みの経営者

さて、では保険営業の可能性はどのように広がって行くのでしょうか。まず、既に特例措置を申し込んでいる経営者の場合を考えてみましょう。
そこではまず《経営者の個人財産の相続や争続対策》の提案が可能性として挙げられます。自社株に係る相続税負担が軽減されたのですから、対策も提案しやすい額になっている可能性が小さくありません。

6.営業方向②自社株の贈与を受ける後継者

2027年末までに自社の贈与を受けた後継者は、その時点で自社株の所有者になります。もちろんその後、先代が死亡しても、事業継続等の要件を満たす限り、(贈与を受けた)自社株に係る相続税は猶予されます。
そして、後継者自身の相続が発生した場合、《猶予された納税額》自体が免除されるのです。しかし、後継者が所有する自社株も含め、その他の財産に掛かる相続税負担は免れません。そのために一般措置導入が必要になるのですが、その措置が延々継続されるとは限りません。そのため、後継者は相続税納税対策のための生命保険契約をしておくことが望ましいと言えるのです。

7.営業方向③事業の継続性を担保する企業保険

納税猶予は、基本的には自社株の贈与や相続後も事業を継続することが条件になります。そのため、先行き事業が《存亡の危機》に陥った時に備える《企業保険》も選択肢になり得るのです。たとえば、後継経営者を被保険者とし、企業を契約者とする終身保険または超長期保険の提案が考えられるのです。
たとえば10年後に危機が訪れた時に、その企業保険の解約返戻金で《しのぐ》わけです。存亡の危機に備える企業保険の保険料支払いのための《努力》に、異を唱える従業員は少ないでしょう。誰もが優位な転職ができるとは限らないからです。

8.営業方向④制度導入に無関心な経営者

『(事業承継税制の)申込期日延期をご存じですか?』というアプローチに対し、制度への関心を示さない経営者には、たとえば《生涯現役》等の事情があるのだと思います。そうした事情の聞き取りは重要になります。
そして《生涯現役=自社株承継は不要》な時でも、《相続は避けられない》ことを思い起こさせなければなりません。『巨額の相続税が発生する程の事業ではない』と言われるケースでも、借金返済や使えなくなった資産等の後始末費用が必要になります。相続税納税対策でなくとも、企業保険を含む生命保険の活用余地がないわけではないのです。

9.相続人との話し合いの重要性

事業承継税制を活用していない経営者の自社株は、相続発生時(経営者死亡時)に評価され、その評価額が相続財産に組み入れられます。生涯現役の経営者が、事業余力を残して他界すると、相続人は《立ち行かないことが分かり切った事業》を、かなりの額の相続税を納税した上で受け取ることにもなりかねません。
余力がなくなった後での他界でも、既に申しました通り、負債の承継に繋がり得ますので、『対策は不要』だとは軽々に言えないはずなのです。

10.もう1つの『ご存じですか?』

そんな時には、もう1つの『ご存じですか?』の題材としては、《低解約返戻金型終身保険》の存在があるでしょう。相続対策なら《キャッシュバリュー》が悪くても、大きな問題にはならないからです。特に生涯現役経営者に、お勧めすべき保険でしょう。
『いやあ、引退(廃業)を決めた時に自分で対応する』と経営者に言われても、『死はいつやって来るか分からない』と告げるべきです。

11.先方の事情が《どう》であっても…

つまり、事業承継税制特例措置の申込期限延長は、多様な経営者の多様なニーズに遭遇する可能性を持つ話題であり得るのです。既に既契約生命保険がある場合でも、その入念さに敬意を表しながら、どんな契約をしたかを話題にするなら、《経営者の考え方》の事例の蓄積が始まります。
それは、他の経営者への提案時に《動機付け事例》として働いてくれるはずです。

事務局からのお知らせ

 《コミュニケーションのきっかけ》だとしても、事業承継税制特例措置の《内容と効果》は、知っておくに越したことはないと思います。そのため、2016年の初版以来、特例措置の創設で内容を大幅改訂した 2018年版に続き、2026年までの税制改正点を補足した、今日の事業承継税制に関する動画講座を《2026年改訂版》としてリリースしています。
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【関連講座名】
自社株の納税猶予制度を保険提案の武器にして経営者と互角以上の立場を取る相続話法:2026年改訂版

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