(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.《有終の美》に内在する警告
《有終の美》とは、一口に言うなら、《物事を最後まで投げ出さない姿勢》を表現する言葉のようです。途中で投げ出さずに《美しく=良く》終えることなのでしょう。
ただ、その原典に当たる詩経(中国の古典)が、『初め有らざるなし、よく終わり有るは鮮し(少なし)《何事にも必ず始まりがあるが、最後までやり遂げることは難しい》』と指摘するように、有終の美を飾ることは、それほど簡単ではなさそうです。
2.事業の残骸を放置する経営者
少なくとも、経営者が《生涯現役を決めながら終焉の準備をしない》なら、有終の美を飾ることは不可能に近いでしょう。経営者個人の問題ではなく、《事業自体の有終の美》の話です。
たとえば観光地に廃墟のまま放置される宿泊施設は、観光客のみならず、周囲の住人の目に、どう映るでしょうか。また、市街地近くに放置された工場跡地は、テレビや映画の《ロケ地》にはなり得ても、決して好ましいものではありません。しかも、そこで撮られるのは犯罪ドラマが多いのです。
3.まだ健全なうちにできること
もちろん事業施設に限らず、一般個人の《放置された空き家》にも、美観を損なうのみならず、安全上の問題が出てしまいます。確かに『初め有らざるなし、よく終わり有るは少なし』なのかも知れません。
つまり個人であれ法人であれ、事業や生活を支える資産形成は《その最終的な処分》まで含めた行為であるべきなのです。そして、それは最低限《事業や生活が健全なうちに、終焉コストを積み立てる必要性》を、私たちに語り掛けて来るのです。
4.準備は資金だけとは限らない
コスト対応の積み立てを《最低限》と申し上げるのは、《資金的準備》のみならず《人的準備》つまり《後始末要員》が必要だからです。
後始末は最も顕著に《人間性が出る》ものですから、その人の人間性次第で『知ったことではない』とも言えます。しかしそんな人でも、自宅の前にゴミを捨てて行かれたら、心底腹が立つでしょう。誰にでも、そういう《人としての感性や感情》を思い起こすべき時があるのです。
5.警告よりも示唆ができる関係
もちろん、経営者に開口一番、『事業終焉のためのヒトとカネの準備をしなさい。有終の美を飾れるかどうかは、あなたの人間性を死後に残すことになるのだから』と、説教をするのは妥当とは言えないでしょう。
そうした《お勧め》が妥当かどうかは、《相手とどれほどの関係を形成しているか》に依るからです。少なくとも《話ができる》関係にないなら、箴言(しんげん:いさめる言葉)は禁物です。
なぜなら、相手が《そうしている》あるいは《そうせざるを得ない》事情を知らないし、聞き出すこともできないからです。
6.相手の事情を知る関係形成法
逆に、少しでも《相手》を知る立場にあるなら、『それではダメです』という言い方ではなく、『あなたのような方が、有終の美を考えないのには、何か理由があるのですか』というアプローチが可能になるはずです。
その一言で真意に気付く人もいるでしょうし、そうでなくとも、様々な《事情背景》を知り、その中に《保険が役立つ可能性》を発見できるかも知れません。
7.良心とも語り合える関係こそ
そうした《顧客の良心とも語り合える親しさ》を持たないなら、特に経営者層には、確かに『節税できます』とか『企業オーナーの退職金を準備しましょう』という《メリット志向》でしか、保険を語れなくなりなりそうです。
ほんの少しでも《踏み込んだ話》ができる関係は、多様な視点から保険を語るために、非常に重要だと言えるのです。
8.共感メッセージの提供が重要
では、経営者層や責任あるビジネスマンと《少しでも踏み込める関係》を作るには、どうすれば良いのでしょうか。もちろん《人間性》をアピールすることは効果的ですが、もっとビジネスライクに行いたいなら、経営者の活動領域(経営や事業推進)に共感を示しながら、一歩踏み込んでみることでしょう。
それは、口頭では始めにくいものなので《自分の名前で出せる文書ツール》を持つことが肝要になると思います。
9.経営者の日常への共感を示す
その目的は、必ずしも《経営者の直接的に役に立つ》ことではありません。あくまで《共感を示す》つまり《保険営業者として経営上の諸問題を感じ取っている》ことの表明です。
もちろん《人》によりますが、経営者は案外、自分の事業と直接関係を持っていない《第三者》で、しかも事業活動に共感を示す人との対話を喜ぶ、あるいは《嫌がらない》ものです。意思決定者は、常に情報収集を怠らない傾向が強いからです。
10.有終の美のための企業保険!
保険の話でも悪くはないのですが、経営者の懐へ飛び込める《マネジメント情報》を持つことが、経営者との関係形成には役に立つと言うことです。
保険営業者の皆様は、企業保険や経営者個人の保険を通じて、《経営者と接する機会も多い》という印象は、ある意味では《社会通念》とも言えるでしょう。そうした《活動特性》を活かして、経営者との関係を深め、後継者がいようがいまいが《事業の有終の美》を飾るための《原資》として、会社が保険料を担う企業保険の提案は、今重要な選択肢の1つになって来ていると考えられるのです。
