新日本保険新聞生保版連載記事(2025年9月)
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
さて前回、保険営業者のAさんが、生命保険がもたらす“心の余裕”を例証するために、様々な“事例の素”を集め始めたと申し上げた。今回は、その過程で見つけた“ストーリー”の詳細よりも重要となりそうな“話の核”となる部分をお伝えしたい。
安寧な隠居暮らしは“今は昔”?
Aさんが親戚や知人から集めた“事例”には、とんでもないものが多かった。平穏無事な例は記憶に残りにくいからだろうか。いずれにしても、夫が残した老後資金を“子供の事業の失敗”につぎ込まされた妻や、退職後すぐに妻から離婚を求められて孤独に追い込まれた夫や、孫を“種”に、たびたび金策に来る子供夫婦等の例を聞いて、『安寧な隠居暮らしは“今は昔”なのだろうか』とAさんは心を痛めてしまう。
会社経営者や自営業者の知人も…
その一方、知人の知人で、“生涯現役”意識で法人経営や自営業を営んでいる人にも、借金を残したまま突然他界したり、従業員が皆退職して社長夫婦だけが残されたりしたケースもあった。
そんな事例を耳にしながら、Aさんは『事業のマネジメントが出来る人でも、自分の“人生マネジメント”は別課題なのだろうか』と感じ始めてしまった。
マネジメントの目線を変えてみる
前回Aさんが『長くなった人生にはマネジメントが必要になる』ことに気付いたと申し上げた。そして、人生マネジメントはビジネスと同様“ヒト、モノ、カネ”を、どう活用するかにあるとも指摘した。もちろん、それに“情報”を加えても良い。
そんな気付きと、収集した厳しい事例から、Aさんは重要な“発見”に至る。そのヒントになったのは、面白いことに、車をバックでスイスイ駐車する知人が『後ろ向きに走ると考えればいいのよ。普通の運転と同じ』と言ったことにあったらしい。
後ろ向きに走る普通の走行とは?
Aさんは、バック駐車が苦手だった。そして『バック駐車を特別の運転だ』と考えていたことに気付く。知人のように『後ろ向きに走る普通の走行』等とは考えてみたこともない。そして、その“特別視”がバック走行の上達を阻害していた。
リスク・マネジメントにも同じことが言えそうだ。もしも、リスク・マネジメントを『方向が違う普通のマネジメントだ』と捉えたら、“悲惨な結果”を避ける手立てを、もっと“普通”に考えられるかも知れない。ただ、普通のマネジメントの“方向”を、どのように変えればリスク・マネジメントになるのだろう。
リスク・マネジメントの重要目線
その時、Aさんの頭に、ふと考えが浮かぶ。それを一口に言うなら、『リスク・マネジメントは、窮地を迎えそうな時に、ヒト、モノ、カネ、情報が“どう”役立ってくれるかを考えることだ』というものだ。
たとえば、資金を“いくら”用意するかではなく『お金が解決できる問題は何か』と考えてみることだ。そして“良好な人間関係”は、どんな助けになるのだろうか。更に“財産”は“情報”は、どんな時に“どのような助け”になってくれるだろう。
小さな発想法転換が導く新たな道
言葉にすれば“当たり前”のことだが、私たちは案外“そんな風”には発想しない。むしろ《いかに不都合の原因を排除するか》を考え、それをリスク・マネジメントと呼んでしまう。しかし、それは《いかに成功するか》という成功思考と似ている。どんなに成功を企図しても窮地に陥ることがあるからだ。
その一方で、人間関係、保有財産、蓄積資金、見識情報は、どのように私たちを、窮地から救い出してくれるかがリスク・マネジメントの“あり方”なのだ。
死は単なる窮地ではないのだが…
確かに、死亡リスクには抗えない。しかし、死を捉える時でも、たとえば“近しい人の死”から、自分はどう這い上がるかを考えてみるなら、自分の死に際して“近しい人”に、どう“支援”できるかがイメージできるようになる。人間関係を“お互い様”で捉え直すのだ。
重い病気の時に、モノを起点にどう復活するかを考えるなら、家や車の選び方が変わって来る。金融資産についても、単に“金額をどこまで増やすか”を目論むのではなく、“どのような”形で“誰”の所有にして行くのが効果的なのかを捉え始める。
一般情報よりも大事にすべきもの
“情報”もそうだ。老後や病気時に“いくら”の資金が必要かという“一般情報”も大事ではあるが、“いざという時の相談先”は何より貴重だろう。“いざ”という時に限らず、日々押し寄せる大量の情報の中で、何が有効で何が“ジャンク”かを考える時の“相談先”も、同じように大事だ。
日常的な“判断”を間違うなら、ビジネス・マネジメントと同様に、人生マネジメントもリスク・マネジメントも、容易に暗礁に乗り上げてしまうからだ。
新発想は“準備の重み”も変える
『そうかあ』と、Aさんは独り溜息をつく。それは、Aさんが『リスク対策を支援するサポーターは、《窮地からどう這い上がるかの事例》を語らなければならないのか』という思いに至った瞬間だ。そして《どう這い上がるか》を語るからこそ、そこで指摘する“準備の在り方”提案に重みが出る。
その準備は、生命保険や医療保険に限らないかも知れない。しかし、生命保険や医療保険や個人年金保険等にも“できる”ことは非常に多いはずだ。
直接間接に関与できる多様な要素
しかも保険にできることは、単に“まとまった資金”を作ることだけではない。家族や会社のメンバーとの“信頼関係”を生み出す手段にもなり得るはずだ。
普段から『信頼してますよ』と言うちょっと暑苦しい関係はなくとも、“いざと言う時は…”という感覚があれば、人の“心の深いところ”が違って来るだろう。
本格的な《事例作り》が始まった
そんな発想の転換から、Aさんは“集めた事例”をそのまま語るのではなく、『どうすればよかったか』という“マネジメントの話”にすることにしたようだ。かなり難しい作業になるようにも思えるが、確かに“コツ”はありそうなのだ。