以下にご紹介するのは、『コロナ禍に終息が見えて来たこともあり、改めて新規先開拓に本腰を入れようと考えているのですが、法人の業種や個人の年齢で絞り込んだり、リッチ層を狙うというようなの視点では、イメージが湧きません。それに、同業者との競争が激しくなると、どうしても顧客から《比較の目》で見られるため、従業員の《メンタル問題》も心配になります。何か《自社らしく》あるいは《自分らしく》、落ち着いて顧客を探す方法はないものでしょうか』というご質問に、お答えした内容です。

1.自分らしさを発揮する起点は《共感》にある!

営業に限らず、人と人との間の中では、相互に共感する部分が多いほど実りの多い関係が生まれやすくなると言えると思います。もちろん、契約が取れることが一番の《実り》でしょうが、共感点のない対話は、話が一歩も深まらない分、成果には至りにくいのみならず、不快感だけが残ることの方が多いはずです。
しかし、営業上で《共感できる人を探す》というのは机上の空論にも聞こえそうです。誰が共感に値するかは、深く付き合ってみなければ分からないからです。そのため《共感段階》を分解しながら、一歩ずつ共感に向かってステップアップする方法を考えてみることに致しましょう。

2.第1ステップ:机上の空論から手掛かりを掴む

アプローチのための顧客データ探しの前に、知っている人を可能な限り、保険契約の有無を問わず思い出してみましょう。そして、一旦リストにしてみます。既に顧客データベースをお持ちなら、そこからリストを印刷してみてください。
その中から、《どこか身近に感じている人》に印をつけてみます。その際《大いに感じる(◎)》《普通に感じる(〇)》《やや感じる(△)》等と、程度差を付けてみても良いかも知れません。

3.第2ステップ:共感ポイントを特定してみる!

次に、それぞれの共感者に対て、『いったいどこに共感したのか』と考えてみます。たとえば、◎の共感者が開業医で、高額の保険契約をしてくれたばかりでなく、『この地域でクリニックをなくさないために、相続対策をしっかりとして後継者に引き継ぎたい』という、社会的使命を語ったところに共感したとします。
しかし、そこで終わらず、服装が清潔だったとか、時間に正確だったとか、きちんと敬語を使ってくれたとか、『この人は、いい人だ』と感じたところを、全て思い出してみて欲しいのです。
ただし、それだけでは不十分です。

4.第3ステップ:反感を抱いた先をリストアップ

その後、今度は反感を抱いた人嫌いな人二度と会いたくない人を思い出します。わけが分からなかった人も思い出すべきでしょう。好き嫌い以前の問題としての、理解が不能だった人です。
そして、《どこが嫌だったか》を徹底的に思い出しましょう。徹底的にです。心の中で、その人を罵倒しても『バカ野郎』と口に出しても構いません。とにかく感情的になって、その人の《問題点》を明らかにして行くのです。この時、自分のことは《さておき》ましょう。
一通り気が済んだら、今度は『でもなあ、あの人にもきっと《いいところ》があったのだろう。なぜ、それを見つけ出せなかったのかなあ』と考えてみます。『次回は、もっとうまくやろう』等と反省するのではありません。ただ他人事のように自分を分析してみるのです。
そして、できれば『もし、この人がこうだったら、それには共感できる』という仮定を探してみて頂きたいと思います。

5.第4ステップ:反感を抱いた人との共感点探し

たとえば、自分の自慢話ばかりするのに、こちらの話を聞かなかった人を思い出し、その人が《そんな風になっている事情》を想像あるいは創造してみるのです。創造とは《話を作ってみる》ことです。保険の《ほ》の字を出しただけで、《偉そう》に拒絶した人に関しても、《そんな風にならざるを得なかった背景》を想像かつ創造してみます。
そして、出来る限り好意的な気持ちになって、『ああ、そうだったとしたら、そんな態度も仕方がないなあ』と思えるまで、その人のことを考えてみるのです。腹が立ってきたら、『お前なんかこの世の害悪だ』と思い切り罵った後で、再び気を静め、『それでもなあ…』と改めて考え直してみましょう。
『何のために、そんなことをするのか』は、多分、やってみれば感じ取れるのではないかと思います。なぜなら、それは《共感者に対する共感点探し、あるいは反感者にも内在していたはずの共感点探し》の練習になっているからです。
この練習を冷笑せず、真剣にやってみれば、人と出会った時、真っ先に《共感点を探そうとしている自分》を感じるようになるはずなのです。

6.第5ステップ:共感をキーとした新規開拓準備

練習に一区切りがついたら、共感者探しのためのツールを考えてみます。そのツールのストーリー例の1つは、『私は保険営業で、こんなお医者さんに出会いました。その人は、地域でのクリニックの世代を超えた継続のために、相続税納税対策に取り組まれていました。納税のために、クリニックの不動産を売却するようなことになったら、身も蓋もないからです。そして、そんな先生のために、保険で少しでもお役に立てたことが私の勇気に繋がりました。保険にできることを、お手伝いします』という類のものかも知れません。
そんな話、あるいはそんな文書やメールの発信には、共感者も反感者も無視者も出るでしょう。しかし、既に《練習》はできています。電話でもメールでも面談でも、少しでも《相手と接触》する機会が出来たら、小さなことでも《共感点》を探してみることが、そんなに縁遠いものではなくなっているでしょう。

7.共感できるポイント探しの良質関係形成効果!

その時、たとえば靴を見て『歩きやすそうな靴ですね』とか、車を見て『色が素敵ですね』とか、服装を見て『ベルトがお洒落ですね』とか、何か《お世辞》ではなく、心から感嘆できるものを見つけ出すことに慣れている自分を見つけ出せるのではないでしょうか。『いい車ではないな』と思っても、色の選択センスだけには共感できるとしたら、そこから共感への道筋を見つけ出すのは、それ程困難ではありません。
共感とは不思議なもので、こちらが持てば相手も持ちやすくなるものです。反感も同様に、こちらが持てば向こうも持ちます。しかし共感の影響力の結果は、反感よりもはるかに生産的でしょう。そのため、相手が反感を示しても、感じ取れる限りの共感点を示すと、相手の反感を包み込むことも不可能ではないのです。
共感点探しの練習は、手練手管の訓練ではなく、《相手を包み込む心の余裕》のトレーニングだと言えるのです。そして、その余裕は、相手のトゲを小さくすることで、自分自身にもプラスに跳ね返って来ます。

8.共感点があれば契約が取れるわけではないが…

もちろん、そうした共感点探しが、そのまま契約への道筋を作ってくれるわけではないでしょう。契約に至るには、顧客の動機付け力保険のプレゼンテーション力が不可欠です。しかし、そうした《技術や技能》は、案外《心の在り様》に邪魔されやすいのです。売り手と買い手の《双方の心》のあり様にです。
たとえば、保険のプレゼンで深い見識を示しても、営業者の皆様が顧客を『こんなことも分からないのか』と見下すような気分になっていると、無意識にそれが伝わって、顧客の心に反感を芽生えさせてしまい、完璧なプレゼンが《調子のよい嘘》に聞こえてしまうこともあるということです。
逆に、営業者の皆様がへりくだり過ぎていると、『この人は金儲けのために私を利用しよとしているのではないか』と、顧客は警戒を深めるかも知れません。そして、そんな疑心暗鬼の氷の塊を溶かしてくれるのが、双方の心に接点を形成する《共感点》だと言えるのです。

9.最近の社会的ムードの特徴

最近の私たちの社会では、かつてのように《ギラギラした成功熱》《他者を出し抜く出世欲》のようなものを、それ程は見かけなくなりました。一時は『ゆとり世代が社会進出をして来たから、世間の色が変わったのか』と感じていましたが、それ以外の世代でも《ギラギラ感が薄れた》感じがするのです。
その変化は『私は私でしかない。だから私らしく生きたいし、私らしく生きられる場が欲しい』という思いが強くなってきているためでしょうか。
ただ逆に、そうした『私には、このやり方しかできないから』という思いが、いつの間にか、かつてのようなプレッシャーを氷解させてしまい、スポーツや芸能の分野で日本人が世界的な活躍をしているのは、とても面白い傾向だと感じています。
そんな世界観が、私たちの社会を包み込もうとしているなら、そんな世界観に立つ《共感点探し》から営業活動を組み立ててみるのも、悪いことではないと思います。《心に無理を強いる》のは問題ですが、無理が少ないなら、嫌な人の中にも共感点を探そうとすることで、社会の変化をリードする立場から、顧客開拓ができるかも知れないからです。