(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
確かに、メンタル上の問題で、十分に能力や意欲が発揮できないことがあります。あるいは『ああ、何て私はメンタルが弱いのか』とか『部下のメンタルを鍛えたい』と思うことも少なくないと思います。
ただ、いきなり方法論に入るより、メンタルが《どのように》問題になるか、そこから考え始めるのが《効果への近道》なのかも知れません。
1.判断や行動の力を歪めるメンタルの実態
意を決して保険の話を切出せば良いのに、《弱気》なままにチャンスを失うことがあります。また、高圧的な顧客や会計事務所のような専門家に、いいように押しまくられて、後で悔しい思いをすることもあるでしょう。これは確かに、メンタルの課題です。
しかし実はもう一つ、大事なメンタル課題があるのです。それは一口に言うなら《慢心》です。
そして、この《弱気》と《慢心》の克服が、メンタル問題の中心課題になります。
2.むしろ弱気より慢心の克服の方が難しい
実際、たとえば『この顧客は保険を契約するだろう』と思い込み、念押し準備を怠って提案の場に向かうような時、『しまった』と反省をしても、それがメンタルの問題だとは感じないかも知れません。『もう少し注意すれば大丈夫』と思ってしまいがちだからです。
ところが、《弱気》と《慢心》は、メンタルの弱点の表と裏のような存在なのです。『私はいつも強気だ』と感じていても、十分な準備意欲を持たないとしたら、その状況はメンタルの弱さから来ているということです。
3.弱気も慢心も、原因の“根”は同じ?
なぜ《弱気》と《慢心》が、メンタルの弱点の表裏を形成するのでしょうか。先に結論を申し上げると、弱気も慢心も、その根本原因は、《状況や事実認識力の不足》にあるからです。その認識力の不足が、その人の判断や行動力を曇らせ、弱気や慢心というメンタルの弱点を形成しているわけです。
たとえば、幽霊が怖いAさんがいました。そのAさんの寝室で、毎夜、真っ暗な中で光が虹色に壁や天井に走り、同時に鈴のような音がするのです。Aさんは眠れず、段々心身ともに弱って行きます。
そんな状況を心配したBさんが、Aさん宅に泊まりに来ました。
4.七色の光と鈴の音の幽霊の姿を捉えた?
寝ずの番をしたBさんは、まず《七色の光》は、すぐそばの堤防上の道路を、トラックが走るたびに壁と天井を照らすことに関係していると気付きます。トラックのヘッドライトが、バルコニーに据えられた装飾ガラスで乱反射し、虹色に部屋を照らしているのです。
しかもトラックの振動で、バルコニーの手摺が微妙に鈴のような音を出します。なかなか気付きませんでしたが、Bさんはついに、鈴のような音も七色の光同様、トラックの仕業だと認識しました。そしてAさんと一緒に検証し、Aさんの恐怖心を解き放ったのです。
5.確かに認識を超えるものも多いのだが…
もちろん、この世には説明がつかないことも少なくありません。幽霊も本当に存在するのかも知れません。しかし、未知のものに対しても、Bさんのように『状況を観察して具体的に認識しよう』と心掛けるなら、《弱気》どころか《恐怖》までもが吹き飛んでしまうことも少ないとは言えないのです。
その一方で、自分の容姿に自信を持っていたBさんには、『なかなか恋人ができない』という悩みがありました。今度は、それをAさんが解消しようと試みます。
6.慢心が《行動》を阻害してしまう好例!
Bさんが恋人を持てない理由は、話を聞いているだけで、Aさんには《分かり》ました。Bさんは、自分の容姿に自信を持つあまり、実は自分の方から、本当に思いを寄せる異性に自分の気持ちを告白をしていないのです。告白やアプローチは、向こうからするものだと感じているのでしょうか。
いずれにせよ、Aさんには、Bさんが相手の告白を待っているだけに思えます。そこで、過去の失敗を二人で振り返るとともに、容姿が良い人が異性に働きかけない時には『ああ、この人には既に特別の異性がいる』と思われると解きました。長い時間がかかりましたが、Bさんは『自分から働き掛けなければ恋人は得られない』と《認識》し始め、慢心による行動不足は、急速に解消して行きます。
7.自信不足も自信過剰も《解決法》は同じ
つまり、自信不足(弱気)や自信過剰という形でメンタル問題を抱えていても、状況をしっかり観察して、《自分のできること》や《自分に不足していること》を見つけ出し、確かに私は《その通りだ》と《認識する》だけで、メンタルの問題は解消に向かう、つまりメンタル強化ができると言えそうなのです。
『認識しただけでメンタル強化効果が出るのか』と言われそうですが、的確な認識は、的確な行為の元になり得るため、認識後の効果獲得は、むしろ《自然な流れ》で実現するものだと捉えられるのです。
もちろん、努力は必要ですが、認識が努力を邪魔する要素が大きく軽減するため、努力成果が現れやすくなるということです。
8.弱気や慢心は強硬手段だけでは治らない
逆に、今の状況や自分の成功を《認識》しないまま、一種の根性論的な鍛錬でメンタルを鍛えることで、外観上成功しているように見えても、心は正直ですから、いざと言う時には《弱気》や《慢心》の海に溺れることにもなりかねません。
強そうに見える人が、いざという時頼りないのは、その人の《状況認識力》に問題があるからでかも知れないのです。
逆に、そんな感覚で《現代的なメンタルの鍛え方》を捉えるなら、そこは案外、知的でスマートな世界だと思えて来るのではないでしょうか。
この記事へのトラックバックはありません。