結局のところ《ニーズ》って何?

『生命保険は顧客のニーズに合わせて売るべきだ』と言われると、『確かにそうだ』とは思います。ただ抽象的には《そう》言えても、個々具体的には《どう》なのでしょうか。そして、私達は今《どのように》すべきなのでしょう。

(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)

1.生きているとはどういうことか

私達の心身や考え方は、大変革はしないとしても、日々変わって行きます。むしろ《一定》に保つ方が大変でしょう。そしてそれが《生きている》ということなのかも知れません。
私達に限らず、生きている草花や虫も日々変化します。それどころか、空の雲や川の水面も、見るたびに変わるのです。地球も生きているかのようです。
では、《顧客のニーズ》はどうなのでしょうか。

2.ニーズが持つ第一の大きな特徴

私達が日々変化するなら、《生きている顧客》のニーズも、変化し続けると捉えるのが自然でしょう。それどころか、私達は《自分のニーズを改めて考える》ようなケースが少ないために、案外《自分のニーズを特定できていない》かも知れないのです。
そしてこの《①特定できていない》ことが、ニーズの第一の特徴だと言えそうです。ただ、特定できても《生きている》限り問題が出てしまいます。

3.ニーズが持つ第二の特徴は変化

たとえば朝には《心身を元気にするには今日は出掛けるべきだ》と感じていたとします。自分のニーズを《特定》していたわけです。ところが、いざ出掛ける段になって《自宅で休むことこそ必要だ》と考え始めます。そして晩には《私が必要とするのは出掛けることでも休むことでもない》という懐疑に陥ることも起こり得ます。
多くの人が朝と昼と晩でさえも《別人》になり得るのです。そして、この別人のように《②変わりやすい》のが、ニーズの第二の特徴と言うべきでしょう。

4.第三の特徴は《外》からの影響

更に、インターネット情報で『野菜を食べることで心身は元気になる』という記事を読んだとします。すると『そうか、私の真のニーズは菜食にある』と考え始めます。そこに《③他者の影響を受けやすい》という、ニーズの第三の特徴が顔を出すのです。

5.正論は現実を意識できているか

『顧客のニーズに合わせた保険を売る』というのは正論でしょうが、その正論を捉える時に、ニーズの3つの特徴《①無意識》《②変化癖》《③依存性》を、明確に認識できているでしょうか。抽象論は、いかに正論でも抽象論に過ぎません。
そして実際の営業現場では、目前の顧客自身が自分のニーズに《①無意識》《②変化癖》《③依存性》であることに、営業者は自然に気付いてしまうのです。そしてその気付き故に、顧客ニーズを意のままに誘導するかのような強引な営業姿勢につながるケースもあったのでしょう。

6.言葉巧みに操れる余地も大きい

実際、言葉が巧みでポーカーフェイスを保てるなら、誘導は比較的容易かも知れません。そもそも、顧客が《考えもしない》ことを話し合うのですから。
しかし、ニーズには第四の特徴があるのです。それは《④後になって実体験をした時に本当のニーズに気付く》という《④時間差》です。そして、この《④時間差》が『騙された』という思いを組み立て上げる原因になります。

顧客は、意思決定をしたのが《自分》だとは、もう考えもしません。

7.生命保険営業が制約される過程

その《騒動?》は、様々な《コンプライアンス》を生み続けて来たのはご承知の通りです。その結果、営業現場では《①無意識》《②変化癖》《③依存性》《④時間差》の前で、どんどんと《為す術》を失って行きます。

そんな中で、私達は《どのように》すべきなのでしょうか。

8.提案が有するコンセプトの再現

今後の方向性は、《ニーズ》の代わりに《もっと根源的なもの》を捉えることを目指すべきでしょう。その《根源的なもの》とは、言葉としては当たり前なのですが、《納得》と《記憶》です。
捉えどころのないニーズを追うよりも、顧客の《今現在の納得ポイント》を探すことから始めるわけです。『ニーズを追うよりも…』という言い方をすると問題かも知れませんので、『顧客の納得ポイントこそが真のニーズだ』と捉えると言い直したいと思います。

9.提案自体が持っていたコンセプト

そして、その《納得ポイント》を顧客とともに《記憶》する方法を考えます。すると納得性は《思考の道筋=ストーリーの理解》であり、記憶は《記録=文書やデータの認知》で補強されると思えて来るのです。
しかもこの《ストーリー+文書やデータ》は、そのまま素直に受け取れば《文書等を伴った提案》に他ならないと言いたくなって来るのです。

10.生命保険営業の特殊性は不変?

火災保険や自動車保険なら、『ニーズがあれば売れる』と言えます。それが、がん保険や医療保険では、やや曖昧になります。そして生命保険では、『ああ、この顧客は相続対策のニーズを持っている』と知ったところで、なかなか成果が出せません。
そんな《生命保険営業の原点》に、今立ち返るべき時だとも言えるのです。つまり『ニーズは《アプローチのきっかけ》あるいは《提案の入口=見込先特定》のようなものに過ぎず、《本来の提案=ストーリー+文書やデータ》がなければ、その先へは進めないと、改めて捉えるべきだということです。

11.ヒトの弱点を補強する営業姿勢

情報過多の中で、《①無意識》《②変化癖》《③依存性》という特性を抱く私達は、自分で考えるだけでは、なかなか判断に至りません。それに《④時間差》要素が加わって、『安心が疑念や不安に転じる』と、誰かを責めたくなってしまうのです。
そんな《ヒトの弱点》を《支える》気分で、ストーリー性を持つ故に考えやすく、記録が残る故に《過去の判断》を大事にするのみならず、『ああ、私はこんなメリットを狙ったのだ。それは今でも決して失われてはいない』と思い起こせるような状況を生み出す必要があると言うことです。

12.生命保険営業が持つ提案の文化

いつの間にか《提案》は、『顧客のニーズに合わせた保険を提示する』という《商品提示》と区別しにくくなってしまいました。一般消費者を相手とした営業の中で、最も難しいとされる生命保険営業では、『それは提案ではなく提示に過ぎない』という感覚で、もう一度《提案文化》を思い起こすべき時に、今来ているのかも知れません。

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