新日本保険新聞生保版連載記事(2025年10月)
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
人生マネジメントの話は、前々回の“Gさんの事例”でも焦点が当てられたが、保険営業者のAさんは、特定の事例ではなく“普遍”的にリスク・マネジメントを語るポイントを思い付いた。それは前回、1つの事例の“核”を探した成果だった。
事例をマネジメント話化する難しさ
Aさんが集めた事例を“マネジメント話”にしようとすればする程、何となく行き詰まる。『思いがけない不都合や、高齢で働けなくなった後のことを考えて準備するのが、リスク・マネジメントですよ』と言ってみても、先のことは分からないからだ。
老後が心配だと言うが、公的年金制度はずっと安泰かも知れない。病気もせず、70歳を超えても働いているかも知れない。そのための準備とは何なのだろう。
マネジメント概念自体があいまい?
マネジメントを考えれば考える程“あいまい”の沼に沈み込むのは、『そうだ。マネジメントの概念自体があいまいだからだ』とAさんは感じ始めた。『将来を予測して準備をする』と言ってみても、将来など予測できるものではないのだ。
一方で『将来の可能性を考えてみる』と言い直しても、何をどう考えるかは見当もつかないことの方が多い。マネジメント視点には“もっと深み”があるはずだ。
今の自分は過去の努力や怠慢の結果
そんな時Aさんは、親戚の『今ある自分は過去の努力や怠惰の結果だ』という話を思い出した。今は過去の結果なのだ。そうだとすれば“将来は今の結果”だし、“今は将来の原因だ”ということになる。
そして『私は今、将来に“どんな原因”を作っているのだろう』とAさんは考え始めた。その時、ある種の解放感からか、『ああ、そういうことか』と一人笑い出した。
マネジメントは将来の原因作り活動
マネジメントとは、一口に言うなら“今、将来の原因を作る”ことにあると言えるのだ。たとえば今、目先のクロージングばかりに走って、新規先との“対話関係”作り、つまり成約の原因作りを怠るなら、近い将来に“提案先”がなくなってしまう。
更には提案先がなくなった時でも、見知らぬ先に“提案”を畳みかけるより、まずは“対話関係”という“提案可能性を生み出す原因”作りから取り組めば、忍耐は必要でも、自暴自棄には陥らないで済むかも知れない。
先々の予測は必要だし重要だが、それは《今原因を作るための参考》に過ぎないのだ。Aさんの頭は、少し“すっきり”し始めた。
リスク・マネジメントの土俵も同じ
そして“実現したい将来のための原因作り”が通常のマネジメントで、“避けたい将来に至る原因排除を考える”のがリスク・マネジメントなのだと、改めて認識した。
『先行きを考えるなら夢を持ちましょう。保険なんて夢のない話をしてもしかたがないでしょう』ということではない。もし将来に夢や目標があるなら、その“実現原因を作る”ことがマネジメントで、“実現を阻害する要因を排除する原因作り”が、リスク・マネジメントなのだ。もう『保険には夢がない』等とは言わせない。
蓄積する原因が有する多様な可能性
しかもAさんは、更に重要なことに気付く。たとえば、プロの画家になる夢の実現の“原因”を作るために、今、自分に出来る範囲でデッサンの猛特訓をすることが大事だと考えてみる。そんな人の将来には、プロの画家でなくとも“パソコン絵画”や“アニメ”の世界での活躍の道が待っているかも知れない。
たとえ夢が破れても、“原因は別様に成長する”ことができるのだ。プロの画家になるという結果に縛られなければ、原因は“生き物”のように成長し始める。
マネジメントの第1と第2の問い?
そんな風に捉えると、“先行きのための原因作り”と“夢や目標が破れた時点で、既に蓄積した原因をどう生かすか”の両方が、マネジメントの基本機能だと思えて来る。
つまり事例を語る前に、あるいは事例と並行して、『これまでの蓄積はどんなものか』という第1の問いと、『それは今後のどんな原因(可能性)になり得るか』という第2の問いに“自分なりの答を出す”ことが、マネジメントの原点なのだ。
そして、第2の問いを『将来“どんな事態”を避けたいか』という問いに入れ替えれば、それがそのままリスク・マネジメントの敷石のような働きをする。
将来予測より大事な先行き眼とは?
リスク・マネジメントも、通常のマネジメントと分けて捉える必要はない。ただ“不都合回避の原因作り”か、“好都合実現の原因作り”かの違いだけなのだ。
そして“将来を見る目”は、いかに的確に予測するかが大事なのではなく、自分が作り続けている“原因”が生きる道を、状況変化の中で探し出す、あるいは見失わない“眼力磨き”にかかっているのだ。
将来予測を先に試みることの危険性
将来を予測して、それに備えると考えてしまうと、予測の役割が大きくなり過ぎて、何を考えても真実味がなくなってしまいやすい。逆に、これまで“①蓄積したもの”を活かしながら、“②将来の夢や目標の原因”作りに励み、更に先行きの状況変化の中で“③その原因がどのように変容しながら生き続けるか”を考える姿勢を持つなら、それこそ“人生マネジメント”そのものだし、“ビジネスマネジメント”でもあり得ると言えそうなのだ。
避けたい事態を物語る事例の重要性
Aさんはさっそく、集めた情報の中から“そんな事態は避けたい”と感じる事例を選び出すことにした。そして、“その事態を避ける、あるいは更に悪化させない原因の1つ”として、生命保険のみならず、医療保険や個人年金等を紹介するストーリーを考え始めたわけだ。
保険の他の選択肢をも余裕で認める
もちろん“不都合回避の原因”は、保険ばかりではないが、他の方法よりも保険の方がパワフルな部分を紹介することはできるはずだ。最終的な選択は顧客の仕事だが、その選択を『より意味深いものにするのは私の仕事だ』と、Aさんは考えている。そんな“話”の1つを、次回ご紹介しよう。