(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
コロナ禍や税制見直しで、法人をターゲットとする生命保険営業は更に困難になったと言えるかも知れません。しかし、今後も一つの有望市場としてチャレンジする必要があるでしょうし、既存の法人顧客先の防衛も考慮する必要が出て来ます。さて、その際の《関係作り》と《関係維持》の要点は…。
1.法人の生命保険は節税が絡まないと無意味?
一時、法人客に《節税》の話題が当たり前のように活用された時期がありました。経営者を被保険者、法人を契約者として、保険料が損金になる定期保険(死亡保険金には課税される)や、保険料は(支払い時には)損金計上できないものの、死亡保険金や解約返戻金の受取時には累計保険料が損金になる終身保険等が提案の中心になっていました。
それは裏返せば、『節税が絡まないなら、法人契約の生命保険には意味がない』という暗黙の告知になっていたかも知れません。
2.ハーフタックスでは保険料負担が大き過ぎる
もちろん、一定の条件下で、該当する全ての従業員を被保険者として法人が養老保険を一括契約すると、支払保険料の半額を損金計上することで、法人が毎年《節税》効果を得られる契約形態(ハーフタックス)もあります。しかし、税負担を軽減できても『保険料支払い分はキャッシュアウトになる』として、『資金繰りの厳しい時に生命保険契約をするのは適切ではない』という会計事務所の指摘が、盛んに行われたのも、記憶に新しいところです。
しかも、当局から《節税》という用語の安易な使用を注意されるとともに、結局は、保険料が損金に落ちれば、受取保険金が課税対象となり、保険料が損金に落ちなければ、受取保険金や解約返戻金の内、支払保険料相当額が非課税になるという《当たり前》の情報が、様々なホームページで公開され、『何だ、結局は保険に節税効果なんてないじゃないか』という感覚が流布したことも、法人に保険を売りにくくなった要因の1つかも知れません。
3.そもそも生命保険は《節税の道具》ではない
しかし、そもそも法人の生命保険契約は、節税のためだとは言えないでしょう。法人は、何らかの理由や事情で、生命保険を必要としたから契約するはずだからです。ただ、その《理由》や《事情》は多様であるため、まずは『経営者とじっくり話をして、諸事情を聞き出す』ことが先決になるケースが多くなります。
そして、そんな《言葉のキャッチボール》のためには、経営者に《対話のテーブル》に付いてもらわなければならないのですが、そこで求められる《動機付けトーク》は決して簡単なものではありません。
しかも、自分は盛んにセールスをしても、セールスをされることを嫌う経営者も少なくないのです。
4.いわゆるキラートークに頼らないアプローチ
そのため、以前は『節税効果があります』というキラートークが必要だったのでしょうし、それなりのアプローチ成功効果があったのだと思います。そして、そんなキラートークが使えなくなった今日、法人開拓はどんどん非現実的なものになってしまったのかも知れません。
『いや経営者が高齢化して、被保険者になれないからだ』と言われるかも知れませんが、人脈が広いケースが多い経営者は、被保険者のみならず《紹介者》としても、存在価値があるはずです。それでも、キラートークがないなら、経営者を振り向かせることもできない…、でしょうか。ここに一考の余地があるのです。
5.生命保険営業者というポジションが持つ効果
生命保険よりも高額な商品を売る住宅や土地の営業者も、ほとんどの場合、口を揃えて『私に生命保険を売るのは無理。顧客に形のない商品を売るほどの営業力はない』と言います。同様に、中堅中小企業の経営者も『生命保険営業者は、色々な企業や事業の《裏》を知っていそうで怖い』と言うことがあります。
営業力で事業を推進している会社ほど、生命保険営業に、ある種の《畏敬の念》あるいは《リスペクトの感情》を抱いていると言えそうなのです。『だから、そばに行くだけで逃げられる』のかも知れませんが、そんな思いに向かい合いながら、逃げられないアプローチ法があるのです。
6.法人の経営陣と親密になりやすいアプローチ
その《逃げられないアプローチ法》とは、保険営業者の皆様が『あちこちの企業様のお話を聞いて気付いた情報をお届けします。内容は、保険に関わるものも、関わりの薄いものもあります』等というスタンスで、《経営情報》の発信者あるいは案内者になることです。
情報は、自作でも他作でも構わないでしょうが、節税や直接的なリスクマネジメントにこだわらず、『ああ、そうかなるほどね』と、経営者に感じさせる内容が良いと思います。
7.個別の事情を聞き出せなければ提案できない
生命保険は、様々にカスタマイズしながら活用する柔軟な商品ですから、一方的な商品紹介ではなく、顧客の事情に合わせた提案が必要になります。そのため情報発信の目的は、ただ単に親しくなることではありません。そして『仲良くなったけれども、保険の話題を切り出しにくい』という程度の関係を形成するのでもないのです。
経営者が『こんな経営事例があるのか』と驚き、営業者の皆様が『保険の事例もありますよ』と、気軽に話し出せる関係形成が目的なのです。そして、これが事例発信型のアプローチの強みだと言えるのです。
8.ちょっと見には《回り道》に感じられる近道
生命保険のように、目に見えない商品を売る営業に最も似ているのは、経営コンサルティング契約の営業かも知れません。コンサルティング契約の営業は、生命保険のような確立した商品がないため、この《関係作り》に、特に注意を払います。そして、少しでも経営者が心を開いて、自社の実情を開示し始めた時に、関連する提案書を持って一歩踏み込むのです。
ただ個別かつ戸別に、そんな活動をするのは非効率ですから、一定の情報を作って配布活動を行います。確率は高くありませんが、内容や姿勢に共感してくれた先との《関係の深さ》には、常に想像以上のものがあると申し上げられます。
生命保険営業も、コンサルティングだと捉えるなら、回り道に見えるものが案外近道なのかも知れません。
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