既に営業面談を好まない客層が増えていた傾向を、コロナ禍が極端なまでに加速し、生命保険の売り方も、新しい局面を迎えています。実際、営業のAI化に取り組む保険会社も出て来たようですが、そんな中でも、むしろ《人としての活躍》が期待される未来型営業者は、いったい、どのような人達なのでしょうか。

1.AIゲームはビジネスに応用されるか?

AIゲームと言えば、特に囲碁や将棋の分野での活躍が目立ちますが、その仕組みがビジネスの世界へも、全面的に応用ができると考えてしまうのは、確かにやや問題かも知れません。
TVドラマの《科捜研の女》に登場するマリコさん(沢口靖子氏)のように、現代科学が万能だと信じる人は別かも知れませんが、今の科学的方法論にはデータで捉えられないものを扱えないという限界があるからです。では、なぜ囲碁や将棋のAIは、プロが勝てない程に強いのでしょうか。

2.囲碁や将棋のAI化が完成形に近い理由

囲碁や将棋でAIが強い理由は、ゲームの《盤面》と《石や駒》が常に同じだからでしょう。勝ち負けの判定も至極シンプルです。だから面白いのですが、ここに高速コンピューターが入ると、全ての可能な《打ち手》を、短時間で予め全部計算してしまうという、とんでもないことをやってのけてしまいます。
プロ棋士には当然、先々を読み切る力がありますが、一手ごとに全部の可能性をシミュレーションすることはできません。競い合う場(盤面)やルールが一定なら、完成されたAIに人が勝つのは不可能でしょう。
自国の選手やチームを勝たせるため(?)に、国際ルールを微妙に変えて行くスポーツ界のように、頻繁にルールや方式に変化を加えて行くなら、話は別ですが…。

3.思考がどういうものかも知らないのに…

以上の観点だけでも、保険営業、特に生命保険営業のAI化は困難に見えてしまいます。そこには盤面制限や駒の限定に似たものがないばかりか、生命保険営業には《人の思考や価値観》という、科学が苦手とする分野に関わる部分の影響が大きいからです。
『機械もいずれ考えるようになる』と言えるのは、機械的にしか考えたことがない人には納得できる話でしょうが、私たちはそもそも《考えるとはどういうことなのか》さえ、理解も認識もできていないのではないでしょうか。自分が意図的に再現できないものを、どうして機械に委ねられるでしょうか。
しかし、機械と人間の連続的な連携ならAIの力を保険営業に導入することが可能かも知れないのです。

4.保険営業の世界に盤面を作ってしまう!

機械と人間を連携的に協働させるには、囲碁や将棋のような《盤面》を想定することが必須になります。そして、いったん盤面を作ったら、後はデータを作ることで、どんな時でも文句も言わずに働き続ける機械の勤勉さを生かすことができるのです。昼夜を問わず働く機械は、それだけでも頼もしいはずです。
では、その《保険営業の盤面》とは、いったいどういうものなのでしょうか。結論を急ぐなら、それは『この商品を、こんな設計でこういうトークや提案でアプローチすれば、こんな顧客なら契約するはずだ』という《仮説》に他なりません。機械が分析する分野を《仮説に限定》するわけです。
そして、仮説が結論として正しいかどうかだけではなく、その仮説の《どの部分》がどう妥当で、どの部分がどう不適切かを、人の行動力や着想力と機械の分析力で発見して行くことになります。

5.スーパー営業者の手法は機械化できない

その一方で、スーパー営業者の過去の実績から、成功営業のプログラムを作ることは、教育ツールとしては意味があっても、AIになりそうにはありません。どんな営業者も、自分の成果の記憶を客観的に思い出すことは難しいでしょうし、過去の正解が将来も妥当とは限らないからです。
しかし、そのスーパー営業者が、過去の思い出ではなく、自分で考えた《仮説》を語るなら、面白いものになるはずなのです。そして、その仮説検証から営業のAI化に取り組み始めることができるでしょう。
もちろん、データ作りには様々な工夫が必要でしょうが、そのためのほんの少しの断片を、この記事の副題にも示した新日本保険新聞生保版第4週の企画記事(2022年4月~2023年3月)に連載しています。

6.先行きの仮説を出すことで盤面が作れる

つまり《仮説を作ること》《仮説を確認する行動をとること》そして《その結果の多面的な分析法》を作り上げ、機械に計算させて、その結果をベースに《更に新たな仮説を作ること》は、機械ではなく《人が主役の仕事》だということです。実際、囲碁や将棋のAIも、プロ棋士の《先手読み》提供から始まったようですから、スタートの手法は同じかも知れません。
違うのは、先にも申しました通り、実践営業には盤面もシンプルなルールもないため、完成形がないだろうということです。もちろん、完成形に至らなくても、営業が効率的かつ効果的になるなら、これも囲碁や将棋とは違い、《途中経過のメリット》が存分に得られることは、大いに期待できます。
極端に言うなら、たとえAI自体が完成しなくても、仮説作りに熟練して行けば、それ自体が《営業ノウハウ》になり得るということです。

7.AI化の流れの中で不可欠となる営業者

そのため、営業成果獲得を目標にして《仮説》と《その行動プラン》を作り、その《結果を分析》して《新たな仮説》を作る《人》は、AI化の流れの中では不可欠な存在になると言えるのです。システムの専門家だけでAIができるわけではないからです。
そして、そうなるには営業経験の中から《仮説を生み出す方法》を、将来活躍すべき営業者の皆様は《自分のもの》にすることが必須になるわけです。
具体的には、どうすればよいか…。それは、2023年の課題として、この場で、あるいは別の場の企画として、ご一緒に捉えて行きたいと思います。