『顧客と親しくなったのに、なかなか保険の話を切り出せない』という時があります。そんな時には、その《親しさ》自体を疑ってみる必要がありそうなのです。
もちろん、親しくなれていないのではないかと疑うのではなく、そもそもそれは《保険営業に際して適切な関係に育っているか》どうかを疑うわけです。
《親しく》なることと《商談》関係を作ることとは、しばしば大きく異なるからです。

1.親しい先に保険の話を切り出せない理由

たとえば、親しい友人と《遊び》に行った時、仕事の話を始めると『堅苦しい話はやめようよ』と言われる時があります。それは、その日の友人との交流自体が《遊び》だったからでしょう。逆に、『仕事の上で相談がある』と言って会っていたら、その友人は、仕事の話を親身に聞いてくれたはずです。
つまり、親しくなった先に保険の話を切り出せないとしたら、無意識のうちに『私は、あなたを保険の顧客だとは思っていない。ただ親しくなりたいだけだ』というシグナルを送ってしまっているのかも知れないのです。
では、なぜそんな《無意識》が働いてしまうのでしょうか。

2.営業者として適切なシグナルを送ろう!

その理由は様々でしょうが、よくあるのは、見込先になるべき相手に『この人は保険の提案がしたいのだ』と思わせるのではなく『親しい人が、たまたま保険を売っている』と感じさせてしまうというものです。つまりは、そう思わせるようなコミュニケーションをしてしまっているということです。
営業上で構築すべき《関係》は、商談に進むための信頼を獲得するものでなければなりません。
その意味で、親しくなる方法が《プライベート・コミュニケーション法》だとするなら、商談関係のベースになるのは《ビジネス・コミュニケーション法》だと言えるのです。

3.ビジネス・コミュニケーション法とは?

ビジネス・コミュニケーション法は、個人的なコミュニケーションとは異なり、商談に続く道を“コントロール”することに努めます。それは、まずは、相手が“受け取りやすい話題”を提供しながらも、相手に、その話題に“応答”させる工夫から始まります。
その工夫の中には、極端な場合、保険の話題を出して、相手から『保険の話は聞きたくない』という返答を引き出すことさえもあり得るのです。そして、その時『えっ、どうしてですか?』と驚いて見せるのです。本当に驚く程、効果は大きくなります。相手の反応を得るために、必ずしも保険の話題を出す必要はありませんが、話題提供⇒相手の応答⇒こちらの驚きの表明という流れは重要です。
何故なら、《驚き》という感情は、自分とは意見が異なる人に、『私はあなたの思いに共感したい』という心の無言のメッセージになり得るからです。

4.相手が答えたくなる問い掛けでスタート

どんな対話であれ、私たちが、相手から《驚きの感情》を示されると、驚かせた理由を説明したくなるのではないでしょうか。
それは『いやあ、私の父親が生命保険契約で苦しんだ』というものかも知れません。しかし、そんな説明が始まった時、それがたとえ保険の話題ではなくとも、既にビジネス・コミュニケーションは始動しているのです。
心理的には《驚きの感情は、相手の言動に関心を抱いたことの表れであり、関心は共感したいという意欲の第一歩》だからのようですが、面倒は話はさておき、驚きや関心を示すと、私たちは、その返礼として答えたくなるものだということです。
そして一旦《答えた》時には、後に出て来る問い、たとえば本格的な保険の話題にも、答えざるを得ない関係が生じ始めるのです。

5.驚きは共感点探しの第一歩にもなり得る

逆に、保険の話や営業者である《私》に関心を持って欲しいなら、相手を驚かす必要があるのですが、もちろん《驚かせる》こと自体ではなく、それが《お互いの共感点を探し出すきっかけになる》ことの方が重要です。
その一方で、たとえば『どうして保険の話を聞きたくないのか』という驚きに満ちた問いに、『今、そんな余裕はない』という相手の返答を引き出せたら、『保険料は高いですものね』とか『将来のために今の生活を犠牲にするのも、確かに問題ですよね』という共感点探しが可能になるということなのです。

6.応酬話法は悪くはないが協働話法も大事

共感とは、もちろん、すぐに反論することとは正反対です。
もし、相手が保険料負担に問題を感じるなら、《保険の機能のアピールで反論する》のではなく、相手の気持ちに共感して《可能な解決策を一緒に考える》姿勢が重要になります。
全てのケースでうまく行くとは限りませんが、ここまで来ると、相手は《見込先になった》と言えるのではないでしょうか。なぜなら、ビジネス・コミュニケーションが本格的に始まったと言えるからです。
つまり、ビジネス・コミュニケーションとは、応酬話法と言うよりは、同じサイドから保険を見る協働話法なのです。

7.具体的な保険提案への道形成は別の課題

保険の対話基盤が出来上がっても、具体的な提案には、一種の《ストーリー作り》が必須になります。しかし、ビジネス・コミュニケーション法で、対話の土台を作っておかなければ、どんな提案ストーリーも活かせません。
しかも、提案ストーリー作りなら、一定の法則で作成が容易なのですが、ビジネス・コミュニケーションには、上記のような《流れ》はあるものの、実際に試しながら《体得》すべき要素が少なくありません。
もちろん、効率的な《体得法》はありますが、マニュアルのようなものがあるとは考えない方がよいと思います。

ご参考教材

上記の観点から、ビジネス・コミュニケーション法の詳細については、以下の講座でご紹介しています。
【教材】経営者や大口顧客との意思疎通を促進するビジネス・コミュニケーション

また、ビジネス・コミュニケーションで対話の土台を作った後、提案ストーリー作成法については、以下の講座でご紹介しています。
【教材】生命保険提案ストーリーの作り方